FEATURE2019/6/8California Dreamers #4
3月のカリフォルニアは、予想に反して寒かった。ようやく暖かくなってきてカリフォルニアらしい気候になっていたが、それでも日が落ちると気温はぐっと下がる。
今回の旅では、去年オレゴンティンバートレイルを旅したケイタからシックスムーンのテントを借りていた。 床なしでかさばらないテントはバイクパッキングにおいてとても有利。
「カリフォルニアだし暖かいから大丈夫!」
そんな根拠のない自信で今回は軽めの装備で挑んだのだが、やっぱり寒かった。
寝袋+エマージェンシーシートでなんとか凌いだものの、夜中に寒さで何度か目を覚ましてしまった。
今回のカリフォルニアトリップでは予想に反する冬の雨の多さや冷え込みに翻弄されてしまったが、とはいえ、何事もチャレンジしてみないとわからない。 そういう意味でも本当に良い経験になったと思っている。
NAHBSが再びサクラメントで開催されるということを聞きつけ、我々シムワークスはショーへの出展を決めたのだが、準備の段階で、何ができるだろうと模索しながら、私自身はSKLAR BIKESのビルダーであるアダム・スカラーとも連絡を取っていた。せっかくの機会だから、ただショーにブースを構えるのではない、何か別の方法でアプローチしてみたいね。 そんな話をしていた。
結果的に、アダムはショーのためのバイクを製作するよりも、現在抱えているバックオーダーの製作を進めることを優先するという決断をし、今年のショーではブースを持たないという事になったのだが、そんなさなかにニックから今回のライドの話をもらったのだった。
鬼門だったライド2日目、ベリエッサピークのビッククライムを終え、なんとかサクラメントにたどり着いたのは日が暮れたあと。ショー初日の日程はとっくに終わってしまっていた。 本当はショーが開催している間に到着するつもりだったのだけれど。。。ブースの設営から、初日の運営まで任せっきりになってしまい、ボスをはじめみんなには申し訳ないと思いつつ、疲れと達成感が入り混じる中、ショー2日目を迎えることになったのだった。
昨年のコネチカットはパス、一昨年はソルトレイクシティ。 久しぶりにカリフォルニアに戻って来たNAHBS。 それも3度目の開催となるサクラメント。開場の時間ともなれば、たくさんの人がブースへと足を運んで来てくれた。
なんだろう、安心感というか心地良さというか、みんな思い思いに 「シムワークス使ってるよ!」と声をかけてくれたり、「こんなの作って欲しいな!」と言った有難い声だったり、とにかくたくさんの人たちとこうして実際に会い、話をすることができたのが何よりの収穫だった。 やっぱりカリフォルニアは僕たちにとって特別な場所だ。
初めてNAHBSに足を運んだ2012年、その時に比べれば、それぞれのブースにあるショーバイクは、時代の変化とともに新しい規格だったり、新しい発想だったり、時代の変化を垣間見ることもできるが、とは言ってもやはり本質的には何も変わっていないんだなと改めて思う。
時代がどんなに進化をしていったとしても、最終的にその道具を使うのは人であって、その人がどうやって自転車と付き合うか、それをとことん考え抜いて作られる、それこそがハンドメイドバイクの存在理由だということには変わりはない。
ビルダーによっては、ショーバイクは実際にショーが終わったらオーダーを入れてくれたオーナーのもとに旅立っていくものも多いのだが、会場で色んなバイクを見て、このバイクのオーナーはきっとこんな風にライドを楽しみたいんだろうと、とても想像が広がる。
実際にビルダーに聞いていると、「このバイクのオーナーはどこどこに住んでいて、こういうサイクリストでね、」という具合に、彼らは嬉しそうな顔で話してくれる。
自分の人生、自分の命を乗せるものだからこそ、誰がそれを作っているかを知っていることは非常に重要だと思う。
僕たちにとって、NAHBSは新しい物事や、珍しいものを見つける場所ではなくて(もちろんそれも大切な一つではあるのだけれど)、こうやって実際に作り手に会えて、話ができる、大切な社交場なのだ。
アダムがブースを出さないにも関わらず、遥々モンタナからカリフォルニアへ足を運んだのもその理由に他ならない。
未来のカスタマーと会える大切な機会であると同時に、同じフレームビルディングという職業でご飯を食べている仲間たちとの情報交換の場という意味でも。
2012年、僕自身が初めてNAHBSに足を運んだ年もサクラメントでの開催だったのだけども、その時に確かNAKED BICYCLESのブースだったと思うが、ショーバイクに乗ってバンクーバーからサクラメントへやって来たとプラカードに書いてあったのを思い出した。 そしてブースにはその道中で汚れたショーバイクがそのまま展示されていて、とても衝撃を受けたのを覚えている。
ショーの終わりにニックに聞いた。「どのバイクが一番クールだった?」その問いに対して彼は、「どれもクールだったけれど、やっぱりリエのドッポが一番良かったな。だって実際に使われて泥だらけになったバイクが一番リアリティーあるでしょ?」
そう、これこそが今年僕らがライドでショーの会場へ辿り着きたいと思っていた一番の理由。
どんなバイクも、やはりその使い手と一体になってこそ完成するもの。
それが滲み出ているバイクたちを肌で感じることができるのが、このNAHBSというショーが素晴らしい理由なんだと僕は思う。
今朝、カリフォルニアのフレームビルダーのレジェンドとも言われる Bruce Gordon / ブルース ゴードン の訃報が届きました。
フレーム製作だけでなく、ブレーキやハンドル、そしてタイヤなどのコンポーネントの製作も精力的に行なっていたブルースは、カリフォルニアのビルダーを語る上でなくてはならない存在であり、多くのフレームビルダーに影響を与えた存在です。
彼に初めて会ったのは、2012年のサクラメント開催のNAHBSだったのですが、緊張していた私に気さくにRock’n Road Tireについての話を聞かせてくれましたのを今でも覚えています。
昨年現役を退きましたが、今年のNAHBSにも姿を見せていたので、まさか彼が亡くなったなんてまだ信じられません。 ブルースさん、どうぞ安らかに。
Ride in Peace Bruce.
NEW NAHBS FEATURE SERIES
California Dreamers #1 | Text by Shinya Tanaka
California Dreamers #2 | Text by Rie Sawada
California Dreamers #3 | Text by Nicholas Haig-Arack
California Dreamers #4 | Text by Toyoshige Ikeyama