[Bike 伊豆 between you and me] 定食の彩る世界
ただ一言、楽しかった。
レースなのだから辛い領域でずっと自転車を走らせることになるのだけど、苦痛は快感の下にあった。
シングルスピーダーズハイだ。
脳内ではエンドルフィンが溢れかえっていた。
記憶を辿るとマウンテンバイクのレースは9ヶ月ぶり。
長期間留守にしてしまったことを省みるほど、楽しかった。
伊豆の春の風物詩、CSC Classic。
毎年3月、サイクルスポーツセンターで開催される。
3月11日、今年も3時間耐久 シングルスピードカテゴリーを走った。
ぼくのCSC Classicは前日の10日から始まる。
Team Topeak Ergon所属、池田祐樹選手から前日入りするという連絡を頂いていた。
ならばぼくの伊東への愛にお付き合い頂こうと、とっておきのランチへアテンド致す。
伊東市街地から車で15分ほど、田園風景の残る里山に佇む農家カフェ&レストラン 風の詩。
中学校の教員だったご夫妻が、後継ぎもなく廃れ往くご実家の農地を憂い、早期退職の後に受け継いだ田畑。
味の良い野菜作りに勤しみながら自らも年齢を重ねた先の未来を想像すると、農業という第一次産業に大きな不安を感じたそう。
そこで第二次、第三次産業にも着手し、精魂込めて育てた野菜を丁寧に加工し、心を込めて販売するという六次産業に発展させた。
ご夫妻が管理する田畑のすぐそばに風の詩の店舗があり、お二人とも野菜ソムリエの資格を有している。
とにかく野菜と米が美味しい。
みずみずしい野菜は素材そのものの味がはっきりしている。
米は玄米のまま保存し、提供する量のみを精米しているそうだ。
植え付けや収穫の時期になると数日にかけて店舗を休業する場合があり、また席数は多くないため、訪れる前に電話にて確認、または予約することを勧める。
前回の投稿、”タウングラスパー”に記した漁協直営の飲食店、これもまた六次産業だ。
六次産業はハイリスクハイリターンだと言われている。
その所以をここに長々と並べることも出来るのだけど、本当に長くなるので各々で調べて理解して頂きたい。
六次産業に興味がある、または地域活性化に貢献する術を探しているという方は、まず六次産業化によって作られた商品を食べてみて欲しい。
何事もまずは腹ごしらえだ。
池田選手には我が家にお立ち寄り頂いた。
息子たちも池田選手との再会を楽しみにしていたのだが、先日コロコロコミックの懸賞が当選し、この日にデュエマのカードがカートンで届いてしまった。
タイミングの悪いことこの上ない。
池田選手に目もくれず、ひたすらカードの子袋の封を切り続けていた。
生まれて初めて応募した懸賞にあっさりと当選してしまった息子は、葉書を送りさえすれば当たるものだと思ってしまっている。
そんなに甘くないのだ、人生は。
思いもよらぬ状況に、我が家の教育は頓挫しかけている。
我が家からCSCまでは車で30分弱。
試走の為に現地へ赴いた。
例年にはない、BMXコースを逆走するというレイアウト。
スタート台はアスファルトではあるものの、勾配は通常の道路ではまず出くわすようなものではない。
路面のコンディションは冴えない。
シクロクロス東京でルーフキャリアを失ったぼくは車内にバイクを積まねばならず、出来るだけバイクを汚さないようにそっと走る。
理解できたのは、3時間の競技時間でBMXのスタート台を数十回登らなければならないということ。
好んでエントリーしているわけなのだけど気は滅入る。
帰宅後、半年間待ちわびたものの幕が開ける。
UCI マウンテンバイク ワールドカップだ。
ワールドカップ全6戦はRed Bull TVにて無料でライブ配信されている。
これまで一度も配信をご覧になっていないということはぜひ一度マウンテンバイク クロスカントリーの熱狂を感じて頂きたい。
次戦は5月20日、日本時間18:00。
ステイ チューンドでお願い致す。
世界最高峰のレースを拝見し、昂らないわけがない。
翌日のレースをバキバキにかっこよく駆けるイメージは仕上がった。
レース当日。
まずは腹ごしらえから。
出走は午後からというわけで、朝7時から営業しているふしみ食堂にてさばみりん定食をキメる。
同じく午後からの出走のTeam Narukiya所属、吉元健太郎選手とそのご婦人にもお付き合い頂く。
店の向かいは宇佐美海岸。
この日は波が高く、朝から多くの熟練サーファー達が波を手なずけていた。
さばみりんはその身を箸で割くとサラサラの脂を流し、春の雪解け水を連想させた。
さばみりん3口でご飯を食べ終えてしまい、おかわりを考えもしたけど思いとどまった。
この後、レースを走るのだ。
普段は朝食を外で摂ることなどまずないのだけど、優雅に、そしてローカル色を全面に押し出した形で地元でのレースに臨むべく、朝定を頂いた。
つまりは地域愛を大袈裟にひけらかしているだけに過ぎないのだけど、溢れ返った愛を行先の定まらないままにしておくことが出来ないのでこうしてブログにしたためている。
地域ならではのものを食べ、そして近所でのレースを走る。
ぼくはとても幸せだ。
友人をぼくの街に案内するのはとても楽しい。
ぼくの愛してやまない街に友人が興味を持ってくれているのが伝わってくるのはもちろん嬉しいのだけど、ぼくがこの街について話せば話すほどぼくが抱く街への愛は更に大きくなっていくのだから。
忘れかけていたが、この投稿はレースレポートだ。
今のところ定食のことばかりだが、いよいよレースの内容に迫る。
比較的暖かい一日となり、前日の試走時と比較すると路面コンディションは大きく回復しているようだったが、出来るだけ丁寧に走るように心掛けた。
久しぶりのマウンテンバイクレースなのだ。
初心に戻ってレースを走る。
シングルトラックの下りではフロントブレーキに重きを置き、前後輪が確実に路面に食いつく様子を体全体で感じた。
シクロクロスの32cタイヤでは選び取ることの出来ないラインが無数に存在した。
マウンテンバイクはとても自由だった。
序盤こそ抑え気味だったのだけど、気付けば3時間に渡ってキープできるペースではなくなっていた。
しかしやめられなかった。
エンドルフィンの作用は絶大だった。
途中、左側のクリートボルトが緩むというトラブルに見舞われピットイン。
ボルトの頭に詰まって固まった土をほじり出すのに手こずり、数分ロスしてしまった。
何とか復帰して途切れかけた快楽を呼び起こす為に全力で駆けまわり、エンドルフィンが苦痛を誤魔化し切れなくなった終盤に今度は右側のクリート。
残り時間は短く、修復は行わずそのまま駆け抜けることにした。
昨年と同様に2位でレースを終えた。
体の痛くない箇所を探すのはとても難しかったし、シューズのソールはクリートがずれて深くえぐられていた。
シングルスピーダーズハイの代償は大きい。
この二日間は地域の味を友人に紹介出来、そしてシングルスピーダーズハイの快感に酔うことが出来た。
グリーンシーズンの幕開けとしては素晴らしいものとなった。
レースの結果もさることながら、その前哨と過程がとても喜ばしい。
自身のレースを終えて尚、熱が冷めきらないぼくは帰宅後にRed Bull TVでワールドカップのリプレイを観た。
ぼくの2018年のマウンテンバイクシーズンはどんなものになるだろうか。
どんなものに出来るだろうか。
定食が配膳されるまでの時間にまた深く考えよう。
図らずもレースレポートはぼくの街シリーズの第二部のようになってしまった。
ならば次回、第三部 the answer 編にてぼくの街シリーズを締めくくろうと思う。
photos : Yuki Ikeda , Sumpu Photo
text : Hiroki Ebiko / SimWorks XC Racing [Blog] [Instagram]