シングルスピード ジェダイズ
Text by Hiroki Ebiko / Photo by Hiroki Ebiko
10月末、人生初のぎっくり腰に悶絶しました。
ぉぉぉ・・・辛いと聞いてはいたがまさかこれほどとは・・・。
しかも治りが遅い!
この記事を書いている時点で12月中旬ですが、一向に良くなりません。
とまあ、嘆いたところで何も変わりはしませんので、同志を集いレースに出ることにしたのでした。
秋ヶ瀬の森バイクロアの中で開催された12時間耐久レース、ARAKAWA 12に。
腰が曲がらないので深い前傾姿勢を取ることが出来ず、ドッポレーサーをフラットハンドルに換装しての出場。
翻すと、フラットハンドルではAJOCC公式戦のカテゴリー2を走ることが出来ないため、自ずと非公式レースを選ばざるを得ないのでした。
しかしその制約の中、なぜよりによって12時間耐久を選んだのかということを説明させて頂きます。
ひとえに、長時間のレースを仲間と走るのが好きだから。
いつもぼくの前に立ちはだかるライバル達と徒党を組む。
若かりし日の悟空とピッコロが手を組みラディッツと戦ったのを覚えていますか?
あの鼓動の高鳴りが長時間耐久レースにおいても響くのです。
喜びと興奮は痛みを凌駕する!
かもしれないと考えてのエントリーとなったのでした。
ぼくらの編成は3人。
シングルスピードマウンテンバイクにおけるライバルとの共闘です。
この度のユニット名、シングルスピード ジェダイズを名乗らせていただきました。
May the force be with you.
シングルスピードが腰に全く良くないことは火を見るよりも明らかでしたが、これしか持っていないので仕方ありません。
秋ヶ瀬へ向かう途中、整形外科に寄り、痛み止めの座薬を投与し、そして腰痛とシングルスピードの神様に祈りました。
どうかご加護を。
フォースと共に。
祈りを捧げ終えると食事です。
道中立ち寄ったのはイタリアンレストラン マコ。
真鶴半島の高台から煌めきの相模湾を見下ろす小さなレストラン。
マコばあばが一人で切り盛りしている店のシステムは、1000円食べ放題。
カウンターに並ぶ大皿から自由に選び取るのです。
そしてピザやグラタンは席に着くと勝手に焼いてくれます。
アイスクリームやケーキはホールに置かれた冷蔵庫から勝手に取って食べるようにとの指示を受けます。
どの料理も一からの手作りで、マコばあばの優しさが溢れ出していました。
サイクリストにも少なからず人気があるようで、ぼくの滞在している小一時間の間に二人の逞しいロードバイカーが入店していました。
次回はぼくも自転車で伺うとしましょう。
影が長く伸びるエモい時間に到着。
それでもレーススタートは19時なのだから、ゆとりのある行動です。
12月の初旬としては暖かな一日であり、時折季節の風が木々を揺らし木の葉を大きく舞い上げるのですが、風が吹き続けるという予報はなく、気温も夜を通して比較的高めであるとのことでした。
この日だけの特設キャンプサイト兼ピットエリアは林の中。
夕空に滴が一滴落とされると波紋は季節の風のスピードで辺りを覆い、拭おうにも簡単には拭うことの出来ない深い深い黒い黒い油膜となってぼくらを夜に閉じ込めたのでした。
この季節の夕闇の速度が心地よい。
昔のことを思い出したくなる気分にさせるのです。
トワイライトに気を取られていると瞬く間にレーススタートの時間が近付き、慌ててゼッケンを装着することになります。
ゆとりを持った行動も台無しとなったのでした。
かれこれ二年半の間続けているランニングのおかげで心肺機能は研ぎ覚まされています。
スタートダッシュ気味の周囲の選手達にも無理なく着いていける感覚ではあったのですが、今も残るぎっくり腰の芯は容赦なくぼくを蝕みました。
喜びと興奮は痛みを凌駕するはずでしたが、2周目にしてそれは夢想だと思い知るのでした。
あまつさえ、まさかの下痢。
レース序盤は周回が終わればトイレに籠るというループに苦しみました。
腰痛にはあまりに過酷な和式トイレに目が霞み汗が吹き出しました。
下痢の症状が落ち着くと腰痛に耐えるのみとなりましたが、日付が変わる頃には腰痛はもはや石化と呼んで差し支えない程の硬直となっていました。
コースの脇にメデューサが立っていたような気がしたし、茂みからバジリスクかコカトリスが飛び出してきたような気もします。
彼らは石化の状態異常を引き起こす厄介な怪物です。
石化を解くアイテムである金の針を使う必要がありましたが、持ち合わせがありません。
針ではなく、鍼の方が有効なのかもしれませんが、とにかくどちらもこの場にはないのです。
チームの足を引っ張っているという事実に苛まれました。
けれどこの事が逆に原動力となったのかもしれません。
足手まといはごめんだと。
夜の油膜が拭い去られ、空が実態を現す時刻になるとレースもいよいよ佳境。
不思議と痛みも疲れも睡魔も吹き飛ぶものです。
大いなるリベレーションに今年最大のあげみざわを感じました。
レースは44チーム中5位でフィニッシュとなりました。
坂手選手、武藤選手とご夫人のクリスティーン、いつもありがとうございます。
次に会うときはまた好敵手としてぼくの行く手を阻んでくれるのでしょうか。
これまで夜間の長時間レースを何度か走ってきましたが、安全に楽しむ為の要となるライト類の装備はこのスタイルで落ち着いています。
前照灯はハンドルバーに大容量バッテリーの物を、ヘルメットには容量の大きさよりも軽量な物を。
ヘルメット用軽量ライトは同じものが予備としてもう一つあると安心です。
ヘルメットライトは軽量と言えども振動でヘルメットごと前側にずれ落ちてくる可能性があるので、ツバが固くしかっりしたサイクリングキャップでずれ落ちを防止しています。
バッテリーが切れると徐々に光量が落ちていくのではなく、何の前触れもなく一気に消灯してしまう物もあるので、二つの装着が必要だと考えています。
そして大切なのはライト類もスマートに格好良くまとめることと、全てを完璧に照らそうとは思わないこと。
明暗のコントラストが強すぎては返って危険である可能性もありますし、何よりナイトライドをナイトライドとして楽しむには多少の暗さが必要なのです。
以上、少しでも参考になれば幸いです。
最後に、ぼくのレースレポートの通例となっている移動の車中で聴いた音楽について。
ぼくが今年最も多く聴いたであろうこちらのポストロックバンド、Elephant Gym。
台湾出身の彼らは清潔感のある演奏がとても眩しく、どうやら何年か前に話題となっていたようではありますが、ぼくが彼らをネット上で捕捉したのは今年も後半になってからです。
ライブを観たいと願っていたところ、なんとサークルズメカニックの友田はライブに行ったそうで、その報告が彼のインスタグラムに投稿されたのでした。
田舎暮らしにおける最大の障壁は買い物だった時代が随分と長かったのですが、今となってはあらゆるオブジェクトがどんな僻地であっても家まで届けてもらえるようになりました。
しかしエクスペリエンスについては欲した人が出向かなくてはならないのですね。
Elephant Gymのライブを伊豆で観ることは生涯叶うことはないと断言出来ます。
友田の投稿で改めて思い知りました。
都会が全能ではないのと等しく伊豆もまた全能ではないと。
行き交うべきなのですね。
都会の人は田舎に、田舎の人は都会に。
text : Hiroki Ebiko / SimWorks XC Racing [Blog] [Instagram]