[Bike 伊豆 between you and me] 悪魔と踊る。命を削る。
騎士団長殺しを読みかけのまま今年最初のマウンテンバイクレースに臨む気にはなれなかったので、レース当日の起床は早朝4時、80余りのページを一気に読み終えました。
読み終えると、晴れて悪路と坂道に立ち向かう資格を得た気持ちになれたのでした。
念のために断っておきますが、ここには何のメタファーもありません。
今回で4回目となったCSC Classic。
伊豆の春の名物として定着しつつあります。
昨年は3時間耐久シングルスピードカテゴリーで優勝することができました。
今年も同じ3時間耐久シングルスピードで優勝を目指す!と言えたら素敵だったのですが、シムディーラー鳴木屋輪店様のMTBチーム・Team 鳴木屋所属、国内最強のシングルスピーダー吉元選手が出走ということで、彼に抗う為の脚も悪巧みも持たないぼくは2位を掴み取るという誓いを立て、今年初めてシムワークス・エクスプロージョンジャージ(ぼくはボカ~ンジャージと呼んでいます)に袖を通すのでした。
半袖にビブショーツ、それだけで心が弾む装い。
空から降り注ぎ、地から湧くものは春そのものでした。
海岸から見上げた一筆で引いたような稜線は真冬ほどくっきりと空との境を示さず、波風立たず真っ平らな海面の煌きは静けさに戸惑っているかのようにも見えました。
疑いようのないレース日和。
コースコンディションはドライ。
林間は一部ウェット。
林間では轍から春の土の湿った香りが立ち上っていました。
汗と埃が肌を覆うことになるのは想像に易いことでした。
シングルスピードカテゴリーの出走者は5人。
相変わらず少ないのですが、5人中4人は先の24時間耐久レースでワンツーフィニッシュを勝ち取ったメンバー。
その中でも吉元選手はずば抜けています。
鬼神のようです。
レーススタート直後から吉元選手は弾むような動きでスルスルと前方へ消えていきました。
弾む、いや、踊る。
悪魔と踊るかのような、軽快さと凶悪さの両方を兼ね備えた登坂力に目を奪われました。
彼の背中を目で追うとぼくの中に奮い立つものがありました。
オーバーペースは承知の上でテンポの速いリズムを刻んでいき、危険を省みず悪魔とのダンスを楽しんでいました。
下りでも悪魔をダンスでリードするつもりでした。
特大のバームがついた左コーナー。
心地良いグラビティを出来るだけ多くかき集めてぼくのものにしたいと欲深さが表面化したとき、バームを降りた後になってもバイクと体を寝かせた状態にフロントタイヤがグリップを失い、ぼく自身は左脛外側を乾いた土に激しく擦り付けることになったのでした。
痛~い・・・。
血だらけです。
ダンスを悔いるのでした。
バイクを起こし、大きく深呼吸、というよりも雑念を吐き出すような溜息をつき、ボタン長押しのリセットを掛けてサドルに跨ります。
3時間は長い。
時間がぼくの側についてくれるといい。
身も心もレースに戻ります。
1時間ほど経過して、落ち着いて冷静に走ったと書くなら頭脳派ライダーの持つインテリジェンスの片鱗をチラつかせるようなイメージに繋がるのかもしれませんが、実のところは早くも残りHPの底が見え始めただけ。
落ち着くも何も、耐久するのみ。
けれど、カメラレンズを向けられると何か残したくなるのが目立ちたがりの性。
緩い下り坂の直線のボトム付近、出来ることならこのわずか10秒間の間に脚を休め、意識をぶちまけ、次の残酷な登坂に備えたいところですが、命を削って飛ぶのです。
命を削ってもこの程度の高さに留まってしまうのですけど。
この写真を含め、競技中の全ての写真はSumpu様によるものです。
素敵な写真を提供してくださり、ありがとうございます。
早く、早くレースを終えたいと、思考はネガティブな方に振り切れてしまっているのですが、常にまぶたの裏側に貼り付いて離れない王滝の二文字。
ここで朽ちるわけにはいかないという意識が脚を前に繰り出します。
シングルスピードにおいてはダンシング、つまり立ち漕ぎの鋭さと滞空時間が重要になってきます。
ぼくが思い描く理想的なダンシングの姿として、タタリ神が地を這う姿が挙げられます。
タタリ神のように低く深く速くなりたいのです。
ぼくはタタリ神になりたいのです。
恥ずかしくないダンシングを身に着けるために、目下上半身強化に毎日の夜明け前の静かな時間を捧げています。
少なからず成果は出ているようで、より深い前傾を長い時間、そして何度も維持できるようになってきています。
そして思いがけずサーチアンドステートが似合う体つきに近づいていることがとても嬉しくもあります。
シムワークスのブログでは筋肉の話は似つかわしくない気がするので、話題を変えましょう。
ぼくと筋肉の話をしたい方はご連絡くださいませ。
もはや遊び心の欠片も残らなくなり、リスクが小さく尚且つ遅くはないラインを繰り返しなぞることしかできません。
ぼくのレースは対人ではなく対時間となり果てていました。
最後の30分は顔も上げられず、愛嬌も振りまけず、声も出ませんでした。
距離を稼ぎ周回を重ねるというよりも、さながら延命措置。
残り時間を生き永らえる為にどれだけセーブできるかについて思いを巡らせていました。
最後の一周となり、せめてラストシーンだけは良いものにしたいと、何かが弾けました。
リアタイヤをブリブリ唸らせ、ペダルがシューズのソールに擦れてギシギシ鳴き、コグはチェーンを巻き取りながらチリチリ軋み、エビコの気管は穴が開いて空気が漏れているみたいにヒュウヒュウと震えていました。
大腿四頭筋は攣り始め、膝はまるで伸びようとしませんでしたが、力任せにペダルを抑えつけました。
最後は川上から流れてくる流木に必死に食らいつくような格好でハンドルバーを振って登り切り、3時間耐久レースを終えました。
2位を死守しました。
国内最強のシングルスピーダーから-3ラップ。
その差は如何ともし難いものでしたが、今回は2番目になれたことについて喜ばしく思っています。
マウンテンバイクのレースを、個性を持ち寄り脚力に関わらずスタイルを表現していけるものにしていければと思っています。
そしてそのお手伝いをシムワークスは出来るとも考えています。
だからぼくは目立つための努力ではなく、弱さを隠さずに走っていくべきだという考えに至りました。
手前味噌な言い方になりますが、シムワークスの取扱製品はハイセンスなものが多く、機能とファッション性を両立しています。
ウェア類はただ着るだけで個性を打ち出しているように見えるはずです。
ぼくが強い時も弱い時も健やかなるときも病める時も、取り扱い製品を使用したり着用することで、弱くても個性を追い求めていいんだということを感じてもらえれば嬉しいです。
出来ることなら強いシムワークスクロスカントリーレーシングを売り出していきたいのですが、叶わない日が多くなるであろうということはぼく自身が一番理解しています。
シムワークスクロスカントリーレーシングの弱い日に注目してみてください。
2017年もマウンテンバイクシーズンが始まりました。
改めまして今年もよろしくお願いいたします。
CSC Classicに関わったすべての方々、ありがとうございました。
また土の上でお会いしましょう。
text : Hiroki Ebiko / SimWorks XC Racing [Blog] [Instagram]