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2019/10/23

Jenny

Text by Hiroki Ebiko

顔に擦り傷を拵えがらも麗しさこぼれるこの女性、リオオリンピック MTBレースの金メダリスト、スウェーデン代表のジェニー・リスベッズその人である。

我々シムワークスは偵察部隊を編成し、来年開催するRidin’ Birds 2020の実弾演習を兼ねて静岡県伊豆市にあるキャンプベアードでの宿泊及び、オリンピックMTBレースのテストイベント観戦の任に当たった。

そこで遭遇したのがジェニーだ。

50m先からこちらに向かって歩く私服姿で黒いサングラスをかけた女性をジェニー・リスベッズだと断定できるぼくの能力からお察し頂ける通り、ぼくはマウンテンバイクのクロスカントリーオリンピック(オリンピックルールで行われる種類のレース、通称XCO)観戦も三度の飯と同等に大好きで、春夏の季節はRed Bull TVによるワールドカップのライブ配信をいつも楽しみにしている。

ジェニーを見つけると緊張して声を掛けられないなどということは一切なく、考えるよりも先に体は動く。

ちょー好きなんですけど♡

それがこの一枚の写真となったのである。

ジェニーはレース中、ジャージのフロントジップを大きく下げてクーリングしていることが多い。

私服姿はどうだろうか。

男たちよ、ご覧の通りである。

見せブラについて何か言いたいわけではない。

発達した大胸筋に注目してほしいだけだ。

というわけで、Ridin’ Birds 2020の開催まであと9ヶ月あるのだけど、イベントの鍵となるXCOというスポーツについて、今後複数回に渡ってぼくの性癖と偏見を交えながら記していきたいと考えている。

取っ掛かりなんて異性への関心でも構わない。

興味を抱くことの動機に不純も不潔もないのだ。

https://www.instagram.com/p/B3O-DaMHCJW/?utm_source=ig_web_copy_link

ジェニーは前日の試走でクラッシュを喫し、レースは未出走となった。

顔の擦り傷はそのクラッシュの際に負ったものだ。

彼女達トップライダーは女性であり戦士である。

レースにおいてもメイクを怠ることはなく、また競技で負った顔の傷を特段隠すこともない。

ぼくらが想像する以上に気高い生き物なのだ。

https://www.instagram.com/p/BHe9Iy_DwhF/?utm_source=ig_web_copy_link

2016年、リオオリンピックで金メダルを獲得した際に履いていたタイヤはデュガスであった。

ジェニーとシムワークスは縁の欠片もないとは言い切れないのでぼくのジェニーに対する思いにお付き合い頂こうと思う。

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#3 @triss @joakimriss

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ぼくが彼女の存在に気付いたのは確か2013年頃だったと思う。

彼女はまだ10代だったはずだ。

クロスカントリーエリミネーター(XCE)という種類の競技において目を見張るスピードでスプリンターから逃げる彼女の勝ち方は鮮烈な記憶として残っている。

気になって調べてみるとクロスカントリーに留まらずダウンヒルにおいてもスウェーデンのナショナルチャンピオンを獲得しているというのだから驚いた。

ぼくが彼女の存在を捕捉したその年、当時から圧倒的な力を誇っていたニノ・シューターが在籍するScott-Swisspowerが、Scott-Odloへとチーム名称を変えたことに加えジェニーを獲得したという発表が世界を駆け巡った。

2014年と2015年、彼女はU23カテゴリーで大活躍した。

2015年はワールドカップ6戦全勝の快挙を成し遂げ、世界選手権でも彼女が勝つことを信じて疑わなかったのだけど、まさかの3位という結果に終わったのはこの先もぼくは忘れることができないだろう。

https://www.instagram.com/p/BJW5hVADxek/?utm_source=ig_web_copy_link

そして2016年。

飛び級で挑んだワールドカップエリートカテゴリーでも勝利を挙げ、世界選手権U23でもリベンジを果たすが、それだけにとどまらない。

ぼくがアドベンチャーイン富士見へと出発する早朝に彼女はオリンピック金メダルを獲得、ぼくは奮い立ってレースに臨んだのだけど、当時4thコレクターを名乗ったぼくはこの日も4位に終わり、抜群の安定感を見せた。

ここまでが彼女の栄光である。

https://www.instagram.com/p/BSQG_0gjAh2/?utm_source=ig_web_copy_link

明けて2017年。

春先のケープエピック、シーオッタークラシックを走り終えた後に彼女からの諸々の投稿が途絶えることとなる。

家族を誰よりも大切にする彼女は大好きな二人の祖父をほぼ同時期に亡くした。

このことが彼女に与えたダメージは計り知れなく、大きなレースとしてはシーズン終盤にワールドカップを二つ走ったにとどまり、そのリザルトは撃沈と呼べるものだった。

あまつさえこの年はスウェーデンサイクリング協会とのいざこざのせいで世界選手権を走っていない。

そして2018年。

チームとの契約を解除。

空白の一年となる。

https://www.instagram.com/p/B1BnxKHngjw/?utm_source=ig_web_copy_link

2019年、ジェニーは復活した。

現在の所属はTeam 31。

ジェニーによるジェニーの為のチームである。

詳細が明かされていないのだけど、Team 31はどうやら家族が加わってチームを運営しているようだ。

家族を第一に思いやる彼女らしい。

ぼくらファンも、彼女のライバル達も彼女の復活を讃え喜んだ。

そしてスイス時間8月11日。

スイスはレンツェルハイデで開催されたワールドカップ第6戦、ジェニーは見事勝利を収めた。

挫折からの大いなる復活だ。

ジェニーを追い続けてきた。

遠く離れていても一緒に喜び一緒に悲しんだ。

まだあったことのない妹のように思ってきたし、いつでも彼女を養子に迎えることが出来るような心構えを保ち続けてきた。(危)

今回のジェニーの未出走は非常に惜しいのだけど、逆にオリンピック本番での走りの価値を高めることになるはずだ。

https://www.instagram.com/p/BxZjlKSAfW9/?utm_source=ig_web_copy_link

ぼくが素直に感じるところでは、ジェニーのSNSを拝見していると挫折前と挫折後で印象が大きく変わる。

挫折後は挫折前に比べ著しく投稿回数が減っているのだけど、そのことによって神秘性が加わったように感じる。

元々の容姿の美しさに加え、力強い走りとは裏腹に写真として切り取るとどことなく儚げであることと、そして復活までの物語がドラマティックであることが彼女の見えない部分と見える部分の境界を神秘的に見せるのではないだろうか。

遠い未来の人間が彼女の半生の物語を知ればそれをこう呼ぶに違いない。

神話だと。

仮にジェニーがSNSに対してひとえに積極性を失っただけだとしても、見るものに神秘性を感じさせるのなら投稿回数に勝る武器になると思う。

余談だが実際の彼女は気さくで親切な普通の女の子だったということは多くの人に知ってもらいたい。

一つ気になるのは、オリンピックに向けてビッグチームはジェニーの獲得に乗り出すのか、そして彼女は応じるのか。

ジェニーはオリンピックでメダルを獲得する可能性が十分にあり、或いは連覇の可能性を計算する者もいるのかもしれない。

所属チームではなくナショナルチームとしてオリンピックに出場するのだが、オリンピックでの使用機材は所属チームから供給されるものになるので、ビッグチームは彼女を迎え入れたいはずだ。

このオフシーズンのストーブリーグからは目が離せない。

特に元旦に行われる当該する選手からの発表は絶対に見逃せない。

極めて贔屓的な話になったが、現在のXCOシーンで彼女ほどストーリーを持っている選手はいないので、シムワークスによるXCOへのご案内の切り口とさせていただいた。

そしてRidin’ Birds 2020についての次なる発表を楽しみにお待ち頂きたい。

我々シムワークスはマウンテンバイク クロスカントリー競技を応援している。