Beautiful steel: Tomboy stem and CrMo Bars.
ステムやハンドルバーの材料としてのスチールが、現在でも有効なスペックであることは、写真のような SimWorks の Tomboy Stem や Mowmow CrMo Bar が今でも私達の倉庫から毎日のように世界へと配送されていく様子を見ていることから確信できます。
今回のエントリーでは、Tomboy Stem の再入荷にちなみ、スチール製のアイテムについて少し考察してみることにします。
鉱石は精錬されて材料となり、材料は加工されて製品となり、製品は使用されてリサイクルされ、原料へと戻ります。こうした循環のエネルギー効率が比較的良く、環境負荷が少ない素材がスチールです。更に強度重量比を向上させる為に、極少量のクロムとモリブデンが添加されたものが CrMo スチール、通称クロモリですね。
自転車の素質であり、最大の魅力である「効率の良さ」は、人間のように非力な動力源であったとしてもまるで翼を得たかのような広い範囲の行動を可能にしてくれます。そして、同時にその道具が身近で理にかなった素材で作られていることが本当の便利であり、消費行動にとっても合理であるのでしょう。衰えることのない人気の秘密はその辺りにありそうです。
アルミからチタン、そしてカーボンへと、材料の進化にバイクインダストリーが追従していった時代があり、もちろんハイエンドと呼ばれる領域では今でも進化が模索され続けているはずですが、月面着陸を目指す時代は過ぎ、むしろどのように地球に足をつけておこうかと工夫する事が、今のサイクリストの関心事のように感じます。
重量を除くあらゆる側面において、CrMo スチールは他のどれよりも優れた性質を持っているという意見があります。例えば材料の時点で安価で加工しやすいといった「作りやすい」というメリットを享受するのは製造者に限った話ではありません。求められる結果(製品)に対し、合理的な手段(材料)の選択は、その利便性を享受する存在、つまりユーザーにとってのコストパフォーマンスをも最大化します。
面白いのは、その魅力が独特の質感を持っている点にもありそうです。溶接痕などはエステティックな観点からは忌避される事もありますが、むしろそれは鋼管を切って繋いだだけの実にミニマルで無駄のないプロセスの証であり、均一に波打つビードにクラフトマンの技巧を垣間見て愉しむことさえあるわけです。
「クロモリは重い」とは物理的な事実で時々耳にするフレーズですが、今のサイクリストがそのズシリとした感触にむしろ愛おしささえ抱くのは、「合理的で無駄がなく、スマート」という強烈に現代的な美しさの側面にあり、単に懐古的な感覚でもなさそうに思います。特別なものより、普通のものの方が魅力に勝る時代というのも趣がありますね。