男性支配社会をぶった斬る。 WTF バイクエクスプローラーズサミットの記録
The Article from The Radavist
文章:テンジン・ナムドル、モリー・シュガー、サラ・スワロー、ジョセリン・ガウディ・カーレル、ホイットニー・フォードテリー、メアリー・リトル(WTF バイクエクスプロアラーズの設立者たち)
サミット写真:グリチェル・ファルスゴン
イラストレーション:テッサ・ハルズ
ライド写真:澤田梨絵
2週間ほど前に、アメリカ国内全土から女性、トランスジェンダー、フェム(レズビアン)、そしてノンバイナリージェンダーのサイクリスト100名が、モンタナ州にあるホワイトフィッシュで開催されるWTFバイクエクスプローラーズサミットに参加するために集合した。
このサミットは女性、トランスジェンダー、フェム(レズビアン)、そしてノンバイナリージェンダーの人々が自転車で旅するコミュニティーを支援するため、そして男性支配社会からの脱却、自転車文化の解放のために作られた。
現在、アメリカで一人の日本人女性のみで運営されるSimWorks USAにとってはとても重要なサミットだと判断し、私(澤田梨絵)は、SimWorks USAを1週間休業し、WTFバイクエクスプローラーズサミットとそのサミットの前に行われた4-Days Bikepacking Seriesに参加することができた。
私は、このサミットに参加して、今のアメリカ白人社会に移住した日本人女性として、自分の心の奥底に沈ませていた言語や文化、見た目の違いのコンプレックスを、ここにいる全員の参加者と共有し解放することができました。
18年前に6年アメリカで留学したときからずっと持っていたコンプレックスを、18年間誰にも共有することはなかったのですが、今回同じ気持ちの女性が少なくとも何人か集結していて、私の気持ちがサミットにいる全員に受け入れられたと思えた瞬間、言葉でもなんでもない何かが通じ合い、そこにいる参加者と一緒になって涙を流し、気づいたらみんな一人一人と泣きながらハグして、一緒にダンスをし、アフターパーティで私はLAの大好きなギャル友のセレナに “スティックアンドポークタトゥー” を入れてもらっていました。(しかも人生初タトゥー!笑) デザインは、新しく友達になったクリスティンのレッドクローバー(ムラサキツメクサ)のデザイン。
言葉に表現しずらいなんとも言えない初体験をたったの1週間でたくさんしてきました。私は、日本のみなさんともこのようなサミットを共有したいと強く感じたので、WTFバイクエクスプローラーズのアンバサダーに立候補してきました。いつか日本で開催できるように、これから私はWTFバイクエクスプローラーズたちとこのコミュニティーを成長させていきたいと思っています。
以下の文章は、The Radavist に掲載された、上記6名のWTFバイクエクスプロアラーズ(添付写真下)の設立者たちによる投稿記事です。
“This Summit is about bikes, but it is not really about bikes.” -Tessa Hulls
「このサミットは自転車がメインだけれど、でも本当のところは自転車がメインじゃないの」
-テッサ・ハルズ
なぜWTFバイクエクスプロアラーズサミットなのか? -テンジン・ナムドル
100名以上のサイクリストがまるで魔法にかかったかのように、綺麗なイルミネーションが輝く中、『WTFアドベンチャートラベルの歴史』について語っているテッサ・ハルズの言葉や姿に魅了されていました。女性は従順な母親、妻、娘であり続けなければいけなかった時代に自転車を生活の中で使い、世界記録を塗り替えた女性たち、女性議長、女性パイロット、女性レーサーなどについて、彼女らの輝かしい歴史をテッサは語っていました。この女性たちは、女性が自転車に乗っても良いという風習を作り上げるだけでなく、自らの歴史を作り上げてきたのです。
そんな彼女たちはサイクリングクラブを創設し、自転車での冒険を本にし、自転車の乗り方を綴った説明書を発行し、女性ができることをたくさん増やしていったのです。その当時、自転車は女性参政権を押しすすめた最初のフェミニストたち(男女同権主義者)によって文化の前進の象徴として多く乗られるようになっていたとのことです。
話を聞いていた人の中には、昔のように女性が自転車に乗ることがタブーとされてきたことに関して、自分が女性であることで苦しかったことなどを重ね合わせている人が少なからずいました。
テッサが自転車の歴史について取り上げたQTIBIPOCであるクイア、トランスジェンダー、インターセックス、黒人、先住民、有色人種は不幸にも一般的な歴史には記録が残っていないのです。彼らに関する物語は完璧ではない部分が多いが、それが詳しく書かれていないからといって、実際に起こらなかったとは限らないとテッサは話に付け加えていました。
私たちはフェミニストの団体として、今まで行われてきた差別のギャップを埋め、このWTFによる冒険を通してその態度を一切変えず続けていこうとしています。男性支配社会に対してチャレンジし、その風潮を取り壊し、そして良い方向へ押し進める乗り物として自転車を使うだけではなく、コミュニティーの力を今以上に強くするために自転車という道具を使っています。なぜなら自分たちが自転車に乗ることが必要であると同じように自転車も私たちのことを必要としているからなのです。
事の始まり -モリー・シュガー
1年前、ホイットニーとジョセリン、そして私を含めて3人はホイットニーの誕生日をお祝いするためにホワイトフィッシュへ自転車で遊びに行った時のことでした。その当時はみんな自転車関係の会社で勤めていましたが、自転車のコミュニティーの中でフェム(レズビアン)、トランスジェンダー、女性、ノンバイナリージェンダーの人たちによる参加が全く見られなく、みんな苛立ちを感じていました。とりわけバイクパッキングの世界では皆無だったのです。
驚くこともないのですが、サラ、ナムそしてホイットニーと一緒にその年の初め頃にバハで自転車を走らせていた時も同じような会話をしていたのです。一つだけ明らかだったのは、みんな同じことを考え、そして自分たちが目指す環境を作り上げるには、私たちが起こさなければならないということを感じていました。
偶然にも、私たち6人は夢にも思わなかった形で、この想いを元に何かできないかと行動を起こし始めました。
2017年の10月、6人はe-mailで連絡をしあい、2ヶ月後にはWTFバイクエクスプローラーズを発足していました。1年間ほど毎週月曜日にビデオチャットで話し合い、サミットが開催される前までまだ出会ったことのない人もいたのです。ノマドスタイルでWi-Fiが弱い環境の中なのにもかかわらずチャットをするメンバー、フルタイムで働いている会社員もいれば、忙しくて親しい友人とも遊ぶことができなくなっていたメンバーがいたりしましたが、私たちは目標に向かって猛進しました。このサミットはお互いのサポートがなければ開催できなかっただろうし、フェム、トランスジェンダー、女性、そしてノンバイナリージェンダーのサイクリストたちが同じように『もしそんなコミュニティーがあったら?』と共感して支援してくれなければ起こらなかったことでしょう。
開催に至るまでのライドイベント −サラ・スワロー
まだ計画が始まったばかりの頃、イベントをするにはただ森に突然サマーキャンプを張り巡らせればいいっていうわけじゃないことは分かっていました。今だから言えることなのだけれど、お互いから色々と学びコミュニティーを大きくする一番ベストな方法は仲間と一緒に自転車を走らせ、キャンプファイアーを一緒に囲むこと。結局は、その時体験したすべての経験の中にこのサミットを作るヒントがたくさん隠されていたんだと思います。
まず最初は一般レベルで、自発的にバイクパッキングをしながら、女性、トランスジェンダー、フェム、ノンバイナリージェンダーの冒険好きサイクリストのコミュニティー同士をくっつける必要があること感じていました。なので、アリゾナ、カリフォルニア、オレゴン、バーモント、モンタナにある挑戦しがいのあるルートを数日間にかけて走る全国的なライドイベントを開催したのです。
このライドはサミットを開催するにあたっての会話を始めること、お互いから学ぶこと、お互いを支え合うこと、普通だったら会わない人たちをつなげることが目的でした。
そしてこのライドイベントを開催した時、期待通りの素晴らしいことが起きたのです。それは、お互いが成長でき、インスピレーションを与えあい、支えあい、しかもシンプルな楽しさや、地球環境に対するサステナビリティを学び、昔からある遊びでの楽しみ方などを経験できる環境が自然と作られたのです。
お互い別々にスタート地点にて集合し、みんなが持ち寄った創造性豊かなお菓子をシェアし、そしてハッキーサック(フットバッグ)のゲームをしながら、最初に感じるみんなのシャイな気持ちや変な空気感を取り除きました。
素っ裸で湖に飛び込み、人間の手がつかない自然を思いっきり楽しみました。そんな無意識にこの冒険にはまってしまった集団が、お互いのプライドをぶつけ合い、どこにキャンプをしたほうがいいかを真剣に話し合い、グループの中でお互い必要なものがあれば助け合っている場面を垣間見ました。
私にとっては、この経験は革命的なことであり、バイクツーリングって最高だなってもう一度惚れ直しました。
共有された価値観、そして今まで経験してきたバイクツーリングに足りなかった何かがわかった瞬間がこの環境にはありました。言葉にできないほどの最高な気分だったのです。
セッション −ジョセリン・ガウディ・カーレル
このサミットで一度集まったきっかけを軸に、その時浮き彫りになった重要な課題や質問などを他の人たちに情報提供するために、参加者に全国でライドイベントの開催を計画してもらいました。
このWTFバイクエクスプローラーは本当に話すことがいっぱいで、みんなに知ってもらいたい事がたくさんあったのです。この3日間のイベントにて19個のユニークなセッションを計画しました。
ルートメイキングやナビゲーションについてのセッションから、アンチオプレッション101について、公有地に対するユーザーズガイド、DIYバイクパッキングハック術など、それぞれのセッションから学んだり共有することでバイクエクスプローラーとしてもっと自信がつくようになるでしょう。他にも、参加者主体のセッションがあり、ある人はサイクリングコミュニティーにおけるサイズインクルーシビティ(どのような体型だろうと差別されないことに対する考え)についてや、バイクパッキング中における長期的健康管理についてなど有意義なトークセッションがありました。
この忘れられないサミットのセッションにおいて、一番パワフルで印象的だったのが土曜日に開かれたクイアと有色人種のサイクリストが行ったセッションでした。
サミットが終わった今でさえも、あの時経験したことを整理するのに多くの時間を必要とするし、彼女らの生の声、寛大さ、不屈の精神などを聞くことができただけでも幸せなことであり、言葉にすることすら難しいと思いました。セッションが終了した後のきらびやかなダンスパーティーは、あのシリアスで活力に満ちたセッションの後だからこそ起こった出来事なんじゃないかなと思ったり。自分たちの行動がこのように身を結び、人生における楽しさや愛については皆平等でなければならないと改めて知るきっかけにもなりました。
サミットカルチャー −ホイットニー・フォードテリー
私たちは学んだ量と同じくらい泣いたかもしれません。自分たちが何者なのか、何をしたいかを再度考えるために、お互いに刺激し合い、心をオープンにさせました。昔、エマ・ゴールドマンが、「あなたとダンスが一緒にできなければ、あなたがやろうとしている革命なんかに参加などできるわけないわ」と言い放ったように、私たちはダンスをし、冗談を言い合い、湖で泳ぎ、もちろん自転車にも乗りました。
私たちが過ごしたホワイトフィッシュ・バイクリトリートではお菓子がいっぱい、そして悪ふざけもそれ以上にありました。昼間のライド、ハンモックでの昼寝、デッキでビール、その日を最高に過ごす方法はいくらでもありました。噂にはなっていましたが、何かと交換条件としてケータリングを提供している人の中に、キラキラとしたものを髪に編み込むというサービスもしていたそうです。メアリー・アン・トーマスはチャップブック(ポケットブック)をリリースしたばかりで、その内容は最近彼女が旅したインドでのバイクツアーについてでした。私は彼女の本と、*ブロニーが嬉し泣きするくらいのもの(My Little Ponyの新作)と交換しました。本当に友情とはマジックみたいなものですね。
*ブロニー:My Little Ponyが大好きな男性ファン
夕飯の後は、即興でのコラボレーションによるヘアーカットや、スティックアンドポークタトゥー、複数のセッションが同時に開催される中、お茶を飲んだり(またはテキーラであったり)しました。
テッサのトークからインスピレーションを受けたセレナは自分のタトゥー道具を持ち出し、習いたい人に簡単なレッスンをしていました。私はというと、他の人にタトゥーを彫ると同時に、タトゥーをやったことがない人に墨を入れてもらっていましたが、信頼があるからこそできるんですね。レッドクローバー(ムラサキツメクサ)の複雑なインクのイメージや、顔がないコーンドッグや、数え切れない数のスポークなど様々なタトゥーデザインがあったりもしたました。あのモンタナでの思い出は一生忘れることがないでしょう。
サミットの最後の日、ジョセリンとサラは『ワイルドキャット・バイクパッキングオデッセイ・オブザマインド』という、様々なバイクパッキングにおけるチャンレンジをチームとしてどう解決していくかというアレーキャットを開催しました。
例えば、荷物が積まれた自転車をフェンス越えさせたり、キャットホールを掘ったり、目隠しをしたまま自転車をパッキングしたり、ハンドパンプで太いタイヤに空気を入れたりと。意味のない行動などがとても可笑しく、みんなで大笑いをしました。サミット最後のイベントにふさわしいイベントでした。そのレースの勝者はダングルボング(大麻を吸うボング)が賞品となっていました。(ダングルボング™がスポンサーだったので)
インパクト −メアリー・リトル
自転車文化における解放、そしてルールだらけの男性支配社会からの逸脱を掲げた明瞭なビジョンを持ったバイクパッキングコミュニティーの集団がついに誕生しました。同じ考えを持ち、お互いを尊重しあえる人々が現在の男性支配社会、異性愛規範、同性愛嫌悪、トランスフォビア、差別主義、障害者差別など様々な抑圧を是正するパワーストラクチャーに対して反旗を掲げるためにこの場所で集まったのです。自分自身の中にある言いたい事を表現することがどれだけ大切かを話し合い、有色人種、移民、黒人、先住民の人々が入り混じって空間を作ることができる場所を作りあげました。これからも、どんな人でも受け入れられる体制を作っていく必要があると実感させられ、メディアにもこの出来事をもっと公表していくべきだと感じました。どんなグループライドでも話し合われるように自分たちのコンセプトを参加者に対して明確に伝えました。そのコンセプトとは、グループライドでペースをお互いに考えること、ルートをちゃんと説明すること、みんなが楽しめるように、そして安全な環境を作り出すために掃除をする人を決めるということでした。
このムーブメントにはまだまだ未来に向かって発展していかなければならないところがたくさんあります。
あのサミットの場所では本当に深い話をし、コミュニティーがより強くなり、そして寛容性が広がりました。まだ自分たちの住む町にはあのようなコミュニティーを作ることは難しいかもしれませんし、もしくは自転車の世界でも難しいとは思われますが、すでに私たちの心の中に芽生えてきているのです。このコミュニティーは実際に存在し、自分たちが信じることが正解であるという安心できる場所がここにはあるのです。私たちはお互いに支え合い、讃え合い、そしてつながり合い、ローカルのコミュニティーの中で使えるものを駆使してもっと公に発言をしていく人を育てるべきだと思いました。そのような人がいなければ、文化を継承していくことも、その中で力を養うこともできませんから。私たちは自転車の歴史を作り、そして変えるためにここにいるのです。
ジョセリン、モリー、ナム、ホイットニー、サラ、そして私はこれからももっとライドや、スカラーシップ、サミット、そして様々なプロジェクトを通してこのコミュニティーを育てていくつもりです。
最初の方でも述べましたが、私たちは自転車を必要としていると同じくらいに自転車もWTFバイクエクスプローラーたちを必要としているのです。あなたも一緒に参加しませんか?
SJ Brooks Scholarship Fund, Specialized Bicycles, EVO, Revelate Designs, Swift Industries, Ride with GPS, Dr. Brew Kombucha, BikeWorks などに資金提供をしてくれた支援者の皆様に感謝の意を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
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