FEATURE
2017/9/1
Adam Sklarという男。

Photo & Text by Shige
去年その存在を知り、今年のNAHBSで実際に初めて顔を合わすことになったSklarbikes/スカラーバイクスのアダム・スカラー。 作っているバイクはもちろん、それを展示するブース構えにいたるまで、フレッシュでクールな感覚を持った青年が頭角を現してきたなというのが第一印象だった。

 

ショーにおいてベストマウンテンバイクアワードを受賞した彼は、24歳という若さながら素晴らしい技術を持ち、現在注目されている若手ビルダーのホープとも言える存在。 SimWorksUSA特派員としてアメリカに滞在している間に絶対にやっておきたかったこと、それは彼との再会であった。 もちろん、彼がどこでどのようにものづくりをしているかをしっかりとこの目で見てくるために。

こうして私は、朝の5時、まだ薄暗いポートランドを出発し、I84へと飛び乗った。
徐々に明るくなって来た東の空が真っ赤に染まっている。 向かうはモンタナ州ボーズマンだ。

この春、NAHBS2017に向かうためソルトレイクへとロングドライブしたことはまだ記憶に新しいが、あれ以来のロングドライブ、今回はその時と違いソロドライブだ。 実は前回パンクトラブルにあったことも少しトラウマになっていたのだが、とにかく安全運転で東へと車を進めた。

 

ボーズマンへの道中、FairEndsがスタジオを構えるミズーラにも足を運び、そこからボーズマンのステイ先へと着いたのは夜22時を過ぎた頃。 長い一日を無事に終えた安堵とともにそのまま飛び込むようにベッドへダイブ。

目を覚ました時にはもう既に朝で、早速ステイ先の家主が手際よくコーヒーを淹れてくれていた。

そう、彼こそがアダム・スカラー張本人である。

 

コロラド州ボルダー出身の彼は、ムーツやケントエリクセン、モザイクなど名だたるハンドメイドビルダーたちのいる街で幼少期を過ごし、ものづくりというのが常に身近にある環境で育ち、もちろん夏には無数に広がるトレイルを走り回り、冬はスキーやスノーボードを楽しんでいた彼。

大学進学を機に親元を離れボーズマンに移り住み、エンジニアリングを学びながらも、大好きな自転車に乗るということは欠かさなかった。 イエローストーンのお膝元でもあるモンタナは大自然の広がる素晴らしい環境で、もちろん冬にはスキーも楽しめるときたものだから、アダムはこの地をすっかり好きになり、在学しながらスカラーバイクスを立ち上げたのが2015年。 ご存知ミステリーランチもこの街にあり、その他にもまだ日本では知られていないようなガレージメーカーや、フライフィッシングのリールメーカーなど大小問わず様々なアウトドアメーカーがこの地でものづくりをしているということもまた、彼の背中を押した大きな要因になっている。

 

NAHBSで会ったものの、実際にこうして彼の住む地で会ったことで、良い意味で私自身が彼に抱いていたイメージというのは崩された。

乗る人、作る人、直す人。 自転車というものに関わる私たちにとって、コミュニティーというのは欠かすことのできないとても大切なものだと思う。 そしてここボーズマンで彼はそのコミュニティーというものをしっかりと構築し、日々自転車を傍に過ごしている。

 

ボーズマンといえばカールストロングが主賓するストロングサイクルの拠点がある街であり、アダムはよく彼に教えを請いに行ったという。そしてスカラーの工房の隣にはバイクショップがあり、時にはメカニックのヘルプをしたり、またアダムのバイクの組み立てをしたり、お互いに協力しながら強く結びついている。

工房の目の前にはとても美味しいベーカリーがあり、ひっきりなしにお客さんがやってくるし、1ブロック歩けばコーヒーショップやブリュワリーも。 金曜の夜にはハッピーアワーと称して、アダムの工房でパイントビールが振舞われるのだが、それと物々交換するように、コーヒーをもらったり、サンドイッチをもらったり。 シムワークスの母艦サークルズでも、昔から生協的な運営をイメージしながら船を進めているが、彼らがここボーズマンでやっていることには非常に共感できる。 とても良いネイバーフッドの関係性を築いているのはここへ来てすぐに感じ取れた。

何事もお腹が空いては始まらないってことで、まずはアダムの行きつけのお店で腹ごしらえ。
個人的にはアリバを恋しく思うほどのシンプルなアメリカンブレックファースト。 シンプルイズベストな中にも、その一つ一つはしっかりと丁寧に調理されているわけで、それを噛みしめるように味わいたいという気持ちがありつつも、脳はそうはさせないというオペレーション。 空腹も相まってペロリとたいらげた。

 

さて、胃袋が満たされたら、工房に戻って手と頭を動かそう。

DIYで作られた彼の工房は、ブラックに塗られた壁とプライウッドを基調としてクールにそしてツール類は整然とオーガナイズされたスペース。ここで毎日フレームを作っている。 色々なビルダーの工房を訪ねたが、やはり人それぞれに創意工夫をし、製作しやすい環境を作ろうという意思を感じとれ、個人的にビルダーの工房訪問というのはそういう楽しみもあるのだが、彼の工房も色んな工夫が見られた。

一つ一つ丁寧に削られ、慎重に確認をしながら、それでいてテキパキとダイナミックに手を動かす。 見ていて小気味良いテンポでどんどんと形になっていく。

なんという若者だろう!

バックフォークだけでなく、大胆なカーヴを描く前三角が特徴的な彼のフレームだが、奇をてらった様な稚拙さは無く実に艶めかしい。 ディスクキャリパーのマウントを始めとするオリジナルなディテールも機能的かつ小気味の良い雰囲気を醸しているし、控えめなロゴやペイントワークがバランス良く全体を整えている。

やりすぎない、でも野心的。自分自身の中に何がクールなのかのイメージを明確に持っており、彼の作るバイクには、とにかくそんなバイクを形にしたいという情熱が、目に見えない熱を放っているようだった。「彼には嫉妬しかないよ。本当に凄すぎる!」これはポールコンポーネントのトラヴィスがNAHBS会場で言った言葉だが、確かに、アダムはまだ24歳なのだ。

美しいと思うものを作りたいという彼のものづくりに対する姿勢が溢れ出ているバイクは、彼自身の大好物であり、得意としているダートでのライディングにフォーカスしたもの。

 

生まれ故郷のボルダーでの経験や、現在生活しているモンタナの大自然を走り回っていく中から得られたインスピレーションを自転車に置き換えるべく、日々トーチを握る毎日にとても充実している。 と彼は言う。

そしてこの日、山頂から見渡すことのできた景色には涙が出そうになった。
自分の好きなことを仕事にする。 言葉にすると簡単なことだが、実際にそれをやり続けていくことには力を要するし、そう易々とはいかない。 けれど彼は、先人たちから多くを学び、それを自分自身の中でしっかりと咀嚼し、フレームビルディングというものに向き合っている。
そんな彼もトーチを握っていないときは、素の24歳の青年だ。
流行りにも敏感だし、音楽も好き、料理だってこなす。 ちなみにラクロワは毎日欠かさず飲んでいるらしい。
リック・ハンターやカーティス・イングリスを師匠として慕い、また素晴らしい仲間にも支えられながら、しっかりと自分自身の力で、ビルダーとしてそしてアダム・スカラーとしてあるべき理想を追い求めている。
大自然の中に自らの身を置き、自転車のみならず、スキーやキャンプなど、外で体を動かすことが好きなアダム。 自分自身最も好きな自転車というものと向き合い、それらが毎日乗りたいと思えるファンツールであることが大事だという思いで作られるバイクは、このボーズマンの工房で彼の手によって1本1本作られている。

 

これからやっていきたいことや、もっとこうしたい、あぁしたいっていうイメージを彼なりにしっかりと持っていて、お互いに色んな話をし、短い滞在ではあったがとても濃密な時間を過ごすことができた。 まだ若いから可能性があるとか、年齢的な部分を抜きにして、彼がつくるものから今後も目が離せないというのが純粋な気持ちである。

ポートランドへと帰る750マイルはとても長かったが、今回のモンタナトリップを踏まえ、これからのことを考えていたらあっという間だった。
Sklar Bikes – スカラー バイクス( https://sim-works.com/sklar/)
 
ソルトレイクで開催されたNAHBSでは若干24歳にしてベストマウンテンバイク賞を受賞した、期待の若手フレームビルダーこそ、Sklarbikes / スカラーバイクスを主宰するAdam Sklar / アダム・スカラーである。

 

名だたるビルダーも多いコロラド・ボルダー出身の彼が、幼少の頃から自転車に跨り走り回って来た彼の経験を元にモンタナ州はボーズマンを拠点にフレームを作っており、それらはシクロクロス・オールロードバイク/マウンテンバイクといったダートでのライディングにフォーカスしたもので、1本1本彼の工房で手作りで製作される。
 

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