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2025/6/20

変えなかったこと、変えたこと – J.B. Bar

Text by Shinya Tanaka / Photo by Rie Sawada & Go Sato

Sycip meets SimWorks J.B. Bar、再び。

Sycipという存在。

カリフォルニア、サンタローザ。
陽射しと静かな空気が交差するこの街で、Jeremy Sycipは今日もフレームを作り続けています。

必要なものを、必要な人のために。
そこに、無駄な言葉も、余計な演出もありません。

彼のバイクは、肩の力が抜けていて、それでいて一本一本に、目を凝らすだけの価値がある。
細部に宿る手間と工夫、そして静かな確信。Jeremy自身の、ものづくりに対する姿勢そのものです。

SimWorksが彼の仕事に惹かれたのは、そうした”無理のなさ”と、”誠実さ”が、しっかりとフレームの細部に、にじみ出るように宿っていたからでした。


1台の展示車から、生まれたもの。

そんなJeremyが、ダウンタウンにあったショールームに飾っていたバイクに、当時は手で一本ずつ曲げて作られていた、ハンドルバーが取り付けられていました。

奇をてらうことのない、けれど明らかに自然な、握りたくなるかたち。
それを目にしたとき、この感覚をもっと多くの人に届けたい、そう強く思いました。

そして、Sycip Bikesの名義のまま、わたしたちは日東に製作を依頼しました。
12年前のことでした。

それが、J.B. Barの始まりだったのです。


歩みを止めざるを得なかった理由。

しかし、道のりは順調ではありませんでした。

5年前、アメリカのとあるメーカーが日東に依頼し、製造していたワンボルト式ステムと、過度にバックスウィープしたハンドルバーとの組み合わせで、走行中にスリップ事故が起きてしまったのです。運よくユーザーに、大きなけがはなかったのですが、ことを重大視した日東は、過度にバックスイープの量を持ったクロモリ製のハンドルの製造を見直すことを決断。
J.B. Barも、その流れの中で、やむなく製造中止に追い込まれました。

他社の問題といえ、自転車は命を預かる道具です、理不尽と言えば、それまでかもしれません。
けれど、わたしたちは、そのときもただ一つのことを思っていました。

このハンドルを、本当に信じてくれている人たちがいる。
そして何らかの方法で解決はかならずできるはず。

やはりすんなりとは、諦めるわけにはいかなかったのです。


5年かけて、積み上げた答え。

製造中止を余儀なくされたその日から、わたしたちは日東とともに、解決策を探し続けました。

クランプ部分の仕上げを変える。
新しい素材を試す。
加工の方法を何度も検証する。
最終仕上げの良い方法はないかを模索する。

幾度となくサンプルを作り、乗り、試し、壊し、また作り直す。
その繰り返しに、5年という歳月がかかりました。

ようやくたどり着いたのが、日東の持つ機械でも加工が可能で、信頼できるアンチスリップ加工です。
それは、単なる改良という意味だけではなく、乗る人を守るために、どうしても必要だった進化でした。


変えたこと、変えなかったこと。

新しいJ.B. Barは、設計図をふたたび引き直し、製造精度、安全性をさらに高めました。
でも、変えなかったものも、きちんとあります。

使った人がだけが覚えているあの乗った瞬間、手と体が自然にそして微妙に馴染む、あの感覚を守りたかったのです。

速すぎず、重すぎず。
過剰でも、物足りなくもない。

J.B. Barが持っていた”ちょうどよさ”だけは、絶対に手放してはいけないと思いました。


ふたつの名前を並べるということ。

これまで、J.B. BarはSycip Bikesの名前だけでリリースされてきました。
わたしたちSimWorksは、ただその背中をそっと支える存在でした。
けれど今回のリリースから、ふたつの名前を並べます。

Sycip meets SimWorks。

ものを作るとは、ただかたちを作ることではありません。
誰と、何を信じて作るか。
それを分かち合える仲間がいること。
それこそが、わたしたちにとっての誇りです。


本物を、本物のライダーへ。

世の中には、似た形のハンドルがたくさんあります。
けれど、かたちだけでは本物にはなれない。

本物とは、たとえ見えなくても、たとえ気づかれなくても、必要な手間を惜しまないこと。
流行に惰性で流されず、安易な近道を選ばず、信じるものを積み上げていくこと。

このJ.B. Barは、培ってきた時間と、正しい感性によって作られたものです。


12年前の春に生まれたこのハンドルが、また誰かの冒険を、少しだけ自由にしてくれたら。
それが、SimWorksとSycip Bikesがともに願う確かな思いなのです。

Sycip meets SimWorks / J.B. Bar
この夏、ふたたび走りはじめます。

SYCIP DESIGNS x SIMWORKS J.B.Bar

素材 : CrMo Steel
ハンドル幅 : 600mm (center – center at ends)
センター径 : 25.4mm
バー径 : 22.2mm
バー内径 : 約20mm
カラー : Silver, Black

Made by NITTO, Japan