【RETROTEC】VISITING NAPA, CA
Text by Shige / Photo by Shige
Chico / チコでポールの工房訪問を終えた後、もう一度インターファイブに飛び乗り、一路Napa / ナパを目指した。
ナパといえば、彼らが住む街だ。
日本へは白馬で行われたシングルスピードワールドチャンピオンシップやグルメセンチュリーの機会に遊びに来てくれたり、また僕らがアメリカに行った時にもよく会うことはあったが、個人的には彼の住む街を訪れたことがなかっただけに、とても楽しみな訪問であった。
ワクワクする気持ちを抑えながら、ぶどう畑の丘が続く気持ちの良いワインディングをシムワークス号で越えて行った。
Hi Curtis!! & Mitzi!!
彼こそ、Retrotec Cycles / レトロテックサイクルズ のビルダー、カーティス・イングリスである。
家族を愛し、自転車を愛する彼は、車も好きで、ピザが大好物であったりする。 もちろんモノを作ることだけでなく、ライドも大好きで、というよりは乗り物全般に大好きだ。
実はこの春、不運にも自宅ガレージ前に停めていた愛車のトヨタBBに泥酔したドライバーが突っ込み、車は廃車+ガレージの一部が崩壊というアクシデントがあり、愛車のウーズレーもバンパーを破損してしまったが、「大丈夫。直してまた元通りにするよ!」と何よりも家族の無事だったことに感謝をし、とても前向きだったので安心したのだった。
そんな話をしていたら、早速カーティスが彼のコレクションの一つであるトライアンフを見せてくれ、近所をドライブすることに。
ナパといえば、アメリカでも屈指の高品質ワインの産地としても知られ、カーティスの妻ミッツィーは地元のワイナリーで働いている。 そんな彼らは大切な仲間にワインを贈ることも。 2014年のNAHBSではクリスキングに、KINGのヘッドセットを装着したバイクを所有している、地元のワイナリーで働くサイクリスト12人にお願いし、その年出来の良かったとっておきの12本のワインをプレゼントしたことは僕自身にとってもとても印象的であったが、本当に粋で、素敵な二人なのである。
5月にはChrisKingがオレゴン州ベンドで開いたイベント・ChrisKing Swarmでも一緒だったカーティス、今年はヨーロッパにオールドカーレースを観に行くということで、ちょうどチケットを手に入れて歓喜していたところだったが、各地から届くオーダーも順調に進んでいるよう。 お待たせしていた日本行きのオーダーフレームもつい先日出来上がり、ちょうど海を越えて届いたところだ。
レトロテックのバイクといえば、やはりその独特のラウンドトップスタイルが一際目を惹く。 けれどその実、乗り出してみるととても軽い漕ぎ出しで進み、落ち着いたハンドリングはどんな路面でも圧倒的な安心感を乗り手にもたらすのだ。
そしてそれは、もちろん乗り手の体に合わせて最適化された寸法、チューブを用いて作られる。
カタログもなければ、トレンドやマスプロメーカーの思惑といったものとは一線を画する。
ひたすらにあなた自身の感性や価値観と向き合って作ることができるのがカスタムオーダーフレームの本質なのだ。
作業が一段落したら、トラックにバイクを積んで近所のトレイルへ。 彼にとってライドはいつでもベストパート。
最近サンフランシスコからサンタローザに越してきたばかりだという、OuterShell / アウターシェルのカイルもライドにジョイン。
カイルもしかり、またスカラーバイクスでおなじみのアダム・スカラーもしかり、ネクストヤングジェネレーションの連中は、こぞってカーティスを慕っている。 そしてまたカーティスも彼らをとても可愛がっているなと強く感じた。 自分の経験を惜しみなく、そして丁寧に噛み砕いて、伝えたり、時に教えたり。 フレームビルダーとして、サイクリストとして、一人の人間として、カーティス・イングリスという素晴らしい人格者が存在する所以はこういったところからも垣間見ることができる。
「いつもはマウンテンバイクで行くことが多いけど、クロスバイクでも問題ないよ。」と言って連れて行ってくれたのは、クロスバイクでのライドにちょうど良い距離感で、狭いながらも走りやすいシングルトラックが続いた。 その眺めの良さに気を取られてしまいそうだが、しっかりとその先のラインに気を遣いながら、モンスタークロスで無事に下りきった。
KyleはHunterのCXにWTB / Nano 40c。 FreshAirHunterチームの一員としてベイエリアのクロスレースで走っていた頃から乗り続けているバイクだ。
ちなみに、カーティスはBuilders Do Fujiの時に乗っていたCX / ALL ROADのバイクに700x35cのパナレーサー・リブモ(スリックタイヤ!!)で疾風の如くトレイルを駆け下りて行ったのだった。 そう、乗るのも抜群に上手いのである。
幼い頃からナパにとどまらず、カリフォルニア中を走り回った彼の経験その全てが糧となり、フレームビルダーとしての彼を形成している。 モノを生み出すことは簡単ではないし、それを実際にリアルに使い切っている作り手というのはどこにでもいるわけではないが、自分にとって何が必要かをしっかりと考え、その先にそれを使い切るというイメージが湧いたのであれば、ぜひ彼が作るフレームにアンテナを張ってみてほしい。
考えて考えて、絞り出した自分自身の答えを現実にするために、信頼できる人にそれを託すことは素晴らしいことであり、そういったことにこそ正しく対価を払いたいと思う。