遠くまで行きたくて – Faraway
Photo by Alex Roszko / Text by Kyutai
「いつかアリゾナの砂漠に、このタイヤの跡を残せたら……」
最初にナオ・トミイから届いたメールにはファーストスケッチとともに、そんな言葉が添えられていた。
そのひとことと手描きのスケッチを見た瞬間に、これは一緒にかたちにすべきだと直感した。強い衝動のようなものだった。
SimWorksとして製品をつくることは、単なる商品開発ではないと考えている。
人々が見てきた景色や、乗ってきた感触、その先にある夢を一緒にレイヤリングを重ねていくような行為だと思っている。
このプロジェクトは、まさにその理想を体現していた。
名前は「Faraway」

Tomii Cycles × SimWorks × Panaracer。
三者が手を取り合って完成させたコラボレーションタイヤ「Faraway(ファラウェイ)」。
舗装路も、グラベルも、思いつきで寄り道したくなるようなトレイルも。
遠くまで行きたい気持ちに寄り添い、静かに背中を押してくれる1本。
走ることそのものの意味を、あらためて思い出させてくれるようなタイヤを目指した。
風景が刻まれたトレッド
トレッドセンターは、舗装路でのスムースな転がりを重視した細かいパターン。
ショルダーには、サボテン、キャニオン、そしてフルムーン。ナオが見てきたアメリカ南西部の風景が、抽象化されたかたちで静かに刻まれている。

サイズは700x40C。カラーは、乾いた大地を思わせるサンドベージュと、どんなバイクにも自然に馴染むブラックの2色。
旅の風景に溶け込みながら、自分の足跡は確かに残せる。そんな存在感を目指した。

タイヤの中身の話を少しだけ
構造には、Panaracerが開発した新しいチューブレスレディ用のインナーシートを採用。
しなやかさと空気保持性、そして耐久性のバランスを追求し、舗装から未舗装まで安心して使える仕様に仕上げている。

やわらかすぎてもいけないし、硬すぎてもつまらない。
そのちょうど中間にある“ちょうどよさ”を探す作業は、細かな選択の連続だった。
だけど、そこにこそ面白さがある。
モノつくりの道のりもまた旅
「タイヤを作るのって、もうちょっと簡単だと思ってました(笑)」
ナオがぽつりと言ったのは、開発のちょうど折り返し地点。

理想の形を保ちつつ、製造上の制約をどう乗り越えるか。
トレッドパターン、ロゴ配置、金型の限界、ケーシングの構造……。
SimWorksが積み重ねてきた経験を総動員しても、簡単にいくことはひとつもなかった。
それでも、彼はいつも前向きだった。
頭を回し、言葉を尽くし、何度も「いい方法を考えてみます」と返してくれた。
その姿勢こそが、このタイヤに込められている空気感を正しくつくってくれたと思っている。


跡を残すということ
Farawayはトレースをするためのタイヤじゃない。
進んだ道を正解にしていくためのタイヤだと思う。
引き返してもいいし、寄り道をしてもいいのだろう。
いま走っているその道を、自分のものにしていけばいい。
「いつかアリゾナの砂漠に、このタイヤの跡を残せたら……」
アリゾナじゃなくてもかまわない。
その跡が、心に残るなら、それがこのタイヤの本当の意味だと思う。

TOMII x SIMWORKS Faraway Tire
Color : Black x Tan, Sand Beige x Tan
Wheel Size : 700c (Etrto 622)
Width : 40mm
Bead : Aramid
Tire Interface : Clincher / Tubeless Ready
Max Air Pressure : 400kPa / 4.0ar / 60P.S.I.
Weight : avg. 610g