FEATURE2015/6/5世紀食通 <走> / GOURMET CENTURY RIDE ASUKE
作品:GOURMET CENTURY RIDE ASUKE
脚本:ChrisKing Precision Components / SimWorks
監督:Everyone
主演:Everyone
ライドイベントに許された幸福の領域を超えて、
それは一本の美しい映画のようでもあり、
あの日あの場所で僕らを包み込んだ空気はファンタジーそのものでした。
SimWorks XC Racing所属ということで、今回サポートライダーとして同行させていただきました。 本業?の5月の王滝をスキップしてまで今回のグルメセンチュリーに参加したかったのは、本国のグルメセンチュリーレポートのファンタジーを読みかえしているうちに、やっぱり単に憧れてしまったのでした。
ただ食べて、ただ自転車乗って、ただ食べる、この上なく単純なイベント。
だけど食べるの大好き、乗るの大好きな人間からしてみれば、まるで神々のお戯れにも似た贅沢でもあるのです。 ただ、普段のライドでは事前にルートは決めず与えられるものなど何一つなく、でもグルメセンチュリーではライドも食も与えられるもの。 よくよく考えるとこんな至れり尽くせりは何かがおかしい気がしないわけでもない。 まあ、肌で感じてみなければわからないでしょというわけで、任務の最低限だけこなしつつ、めいっぱい楽しんじゃお!っていうのがぼくの魂胆だったのでした。
溢れる期待感は苦痛であるはずの長距離運転も快適に、ということはさすがになかったのだけど、カーステレオにはネバーエンディングストーリーのサウンドトラック。
ファンタージェンを目指します。
ランデブーポイント百年草への到着は真夜中、ささやかな睡眠の後、4:00頃に蠢きだす仕掛け人たちの気配にアンテナが反応してしまい、グルメセンチュリーモードに切り替えるのでした。
霧と小雨。
朝食と晴れ間を待ちます。
その間、参加者達のバイクチェック。
集まった自転車はとんでもないことになっていました。
スチールは全体の8割、そのうち7割がハンドメイドといったところ・・・。
やはりCielo多し。
でも、そのラインナップの中でもRacerよりもSportifの方がずっと多かったです。
つまり冒険大好きな人たちが集まったということです。
走光性 / 走光性というのは例えばカブトムシが光に向かって飛ぶことのような、生物が光に向かって移動する習性のこと。
グルメセンチュリーという光に集まったのですね、カブトムシが。
サポートライダーの面々との打ち合わせを済ませ、いざ朝食へ。
“食べ過ぎ注意、食べ過ぎ注意” 何度も念仏のように唱えた決意は風の前の塵に同じ。
抗うことなどまったく出来なかったのです。
胃袋は悲鳴を上げようとも、忘れてならないのは任務。
最後尾を走り、すべてのライダーをディナーにお連れするのがぼくの任務。
ライダー全員の出発を見送ったところで、最後にメロンを頬張り、ガーミンを起動させ、Quoc Phamのシューズの靴ひもをきゅっと結び直しました。
そして雲は途切れ始めていました。
ほぼ平坦の道を進み、緩やかに登り始めたところで念のため再度マップ確認。
すると、黄色のビートルが隣に停まり、運転手と同乗者はとびっきりの笑顔をぼくに送りました。
仕掛け人自らが楽しそうにしていることに嬉しくなります。
やがて人々の暮らしの気配が薄れるのと比例して勾配が急になり、最後尾を走る集団に追いつきます。
路肩でクリートの位置調整をしているようで、当然のことながらトラブルを楽しんでいます。
新たなるトラブルは新たなる絶望感で迎えればいいのだ、という言葉がある小説に書かれていますが、新たなるトラブルは新たなる期待感で迎えればいいのだと、ぼくは一人ニヤ付くのでした。
クリートの位置調整の頭上では、森は木漏れ日を地表に注ぐ支度を整え、路面はひび割れとその周りだけを残し乾き始めていました。
登りは長く、バイクを押して歩くライダーも。
“野次を少しだけブレンドした” 激励を送り、ピークまでの上昇量と登坂距離と時間的余裕を伝え、段戸湖の休憩ポイントを目指します。 休憩ポイントに到着し、四角く可愛い焼き菓子を目の前にすると、食べ過ぎた朝食を急ピッチで消化する音が体の内側から聞こえた気がしました。
標高は900m付近、風は残酷さを帯びジャージ一枚では立ち止まっているのが辛い。
この先は長いダウンヒルということで、軽装過ぎることを後悔。
全員の出発を見送り、少しだけ登ると舗装の傷みは激しさを増し、悶えているかのように連続するカーブの下り。 ロードレーサーではかなりスキルを問われそうな道ですが、大きなクラッシュは特になかったようで、皆様の安全走行に感謝致します。
グルメセンチュリー足助は、ほぼ絶え間なく水の音が聞こえるルートを辿りました。
時に優しく、時に激しく、水の音はぼくらの心拍数と高揚感の象徴のようでもありました。
滝の落ちる音に会話のボリュームを少し上げながらのランチ。
滝の落ちる音に負けない舌鼓を呼ぶランチ。
ライダーたちはひと時のくつろぎの後に再びしばしのヒルクライムに見舞われます。
前半ほどの過酷さはないにしても、ランチを終えて満たされた心と体の前に立ちはだかる峠道。
走りながらの会話が極端に減っていきます。
サポートライダーとしての献身性が問われます。
と言っても、ただ会話を促すだけなのですが。
あーでもない、こーでもないと喋りながら登ればほら、また長い下りです。
というよりも、あとは30km近く下るだけ。
途中に休憩ポイントを挟みながら。
もはや当たり前のように水の音が聞こえる場所が最終休憩ポイント。
よく冷えた和菓子と水の音のセットは、さんまと大根おろしのコンビネーションに負けないくらいの威力を発揮しました。
最後の休憩ポイントを後にし、ライダーたちは残り20kmを下るだけとなりました。
待ち受けるディナーとビールを想えば、ぺダリングはダンスステップのように軽くリズミカル。
苔生す道、浮き砂利、水たまり、傾げ始めた陽、タイヤノイズと右手にはせせらぎ、この日出会ったばかりの仲間とそして疾走感。
まさに映画そのものでした。
無事に全てのライダーを百年草へお送りし、労いの言葉を交わしたのち、ディナーに向けて身支度を整えるのでした。
ここでは割愛しますが、長い夜の始まりです。
イベントの直前までは至れり尽くせりが過ぎるのではないかという疑念も少なからずあったのでしたが、最終的には仕掛け人がどうしようとも、楽しむ強さを持つ人々は自由な足し算引き算の果てに各々にとって最良のグルメセンチュリーを選び取ったのでした。
地域の有志の方と少しお話させて頂きました。
「私が知る自転車乗りはこんなにオシャレじゃないし、こんなに楽しそうじゃない。自転車乗りのイメージが変わりました」
最高の賛辞です。
参加者の皆様とともにこのイベントに関われたことを心から嬉しく思います。
また、人々は自転車乗りを見ているということでもあります。
マナー云々は当たり前として、更に楽しみましょう。
ぼくたちと皆様はあの日、世界一人生を楽しめたのです。
一人遊びでもあの日の幸せをリロードできるようになれたなら、
もうあなたは神様です。
グルメセンチュリー足助に置きまして、全スタッフの皆様、全ボランティアの皆様、全参加者の皆様、行政の方々、関わっていただきました全ての方々、最大限の感謝をここに記します。
ありがとうございました。
最後にぼくの個人的な感想と未来の展望を表しますと、シムワーカーみんなの圧倒的な自転力を改めて伺い知ることができ、いずれ最終的にぼくも自転力というものをちゃんと備えることができたなら、その時はシムワークスの傘の下から抜け出して、一人でも激しい雨を凌ぎ、或いはその雨さえも楽しむことができるようになるべきで、ぼくはぼくの傘の下で誰かを自由にしてあげたいなと。
学ぶべきことを得ることができました。
ぼくはあの日から、もうひとつ上の段階の幸せを感じています。
世紀食通 <f>編 へと続きます。
GOURMET CENTURY ( http://gourmetcentury.com/ride/)