彫刻と砂漠と自転車と
Tomii Cycles ナオさんとFarawayの制作秘話

アートと自転車。
そのふたつの世界は、どこか遠いようで、実はとても近い場所にあるのかもしれません。
ファインアートを学び、彫刻の世界でキャリアを築いてきたTomii Cyclesのナオさんが、いまではテキサス・オースティンの陽ざしの下でハンドメイドバイクを作っている。そんな事実には、少し特別な物語が宿っているように思えます。
金属に触れ、かたちをつくることは、彫刻とハンドメイドバイクで大きく変わるものではありません。
しかしそこに、「走る」という目的が加わることで、ナオさんの仕事はより生命力を帯びていったのかもしれません。
そんなTomii CyclesとSimWorksが手を取り合い、生み出したのが新しいタイヤ「Faraway」
その名のとおり、どこか遠くへ行きたくなるような、ほんの少し魔法がかかったような1本です。

「砂漠に跡を残せたら──」
そんな一言から始まったこのプロジェクトは、砂漠の空気をまとい、サボテンの影を踏みながら、あなたのもとへ向かっていきます。
ナオさんの原点、彼の目に映る風景、そして“楽しくつくる”という一貫した哲学。
すべてがこのタイヤに込められています。
そんなナオさんが、なぜ自転車を作り始めたのか。
どんなふうにファインアートの世界からフレームビルディングへと歩みを進めていったのか。
そして、Farawayというユニークなタイヤに込めた想いとは。
今回は、その背景をたどるべく、Tomii Cyclesのナオさんにお話を伺いました。

改めまして、ナオさんの出身はどちらでしょうか?また現在どこに住んでいますか?
出身は新潟県新潟市の白根という所です。現在はテキサスのオースティンに住んでいます。


現在はフレームビルダーとして活躍されているナオさんですが、もともとはアートの世界にいらっしゃったんですよね。フレームビルダーになる前はどんなキャリアだったんですか?
高校卒業後、デザイン専門学校で2年間ファインアートを学び、1998年に渡米しボストンのアート大学(ファインアート、立体、彫刻)に2年行きました。卒業後に彫刻の会社で12年ほど働きました。
会社ではトラディショナルな銅像の制作、修復、型作りなどをメインでしていました。
会社以外で自分の作品の制作も行い、個展もしていました。



しっかりファインアートの世界ですね。では自転車との出会いはどういったものだったんでしょうか? 初めて買った自転車のことや、何か印象に残る出来事があれば教えて欲しいです。
2006~2007年頃にエクササイズ用として安いバイクを買ったんです。そのまま乗ることに満足できず、パーツを交換に始まりペイントもしたりしました。それでも満足できず自分でパーツも作ってみたいと思い、ローカルのマシーンショップでチェーンリングを作ってもらっていました。

なるほど。最初から凄い勢いでカスタムからものづくりへ進んでしまうわけですね。
自転車を買ってすぐにローカルのバイクライダーやビルダーと知り合い、ハンドメイドバイクの世界がある事を知りました。ボストンやその周りの州にたくさんの有名なフレームビルダーがいることを知り色々調べたり、実際に会いに行ったりしているうち、ハンドメイドバイクの魅力に引かれ自分でも作ってみたいと思いました。



TOMII CYCLESを始める前に、3RRRというブランドを立ち上げてスモールパーツを作っていた時のアイテムたち。
ビルダーになろうと思ってから、実際にどうやってフレームビルディングを学びましたか?
ボストンにはたくさんのビルダーがいて、その時友達だったイアン(Icarus Frames、現在は作っていないですが。。)にロウ付けで作るフレームの作り方を教えてもらいました。その後、Seven Cycles にいた西川さん(現在Kualis Cycles)にTig溶接を教えてもらいました。


フレームビルディングにおいて最も影響を受けた人はいますか?
ハンドメイドバイクを知り始めた頃はトラディショナルなラグを使ったフレームのアーティスティックさに惹かれました。僕もスカルプターなので。Richard Sachs、Peter Weigle、Peter Mooneyなどレジェンドビルダー達のバイクは本当に美しいですよね。

西川さんが作り出すようなTig溶接が綺麗なバイクもすごいですし、Fat Chanceのような楽しいブランディングも好きですし、日本にもたくさんの素晴らしいビルダーがいますよね。
なので、最も影響を受けた人というのは難しくて、全てのビルダーから影響を受けました。笑

フレームビルダーだけにとどまらず、アートの世界でも影響を受けた人がいれば教えてください。
最近の僕の自転車や物作りのインスピレーションは、他の自転車から受けるということは少なくて。他のジャンルや普段の生活の中にあったり。街に出て見える建物や色や形とか。
オースティンは僕にとって刺激が多い街で気に入ってます。
砂漠やサボテンのアイディアもテキサスに引っ越してきてからですし、アリゾナのAztecデザインやナバホのアートや色使いにもすごく影響受けてます。

今やTOMII CYCLESといえば、ハンドメイドバイクの世界でも唯一無二の存在になっていると思います。ナオさんがフレームビルディングやものづくりにおいて大切にしていることはなんですか?
そう言ってもらえると嬉しいですね、ありがとうございます!
フレームを作るプロセス、デザイン、フィット、溶接、仕上げ、等々たくさん大切な部分はありますし、その全てが重要で難しく、かつ楽しい作業でもありますね。
けれど一番大切にしているのは”楽しく作る”という自分の気持ちです。僕が楽しく作らなければ、乗った時に楽しいはずがない。笑




ちょっとスピリチュアルになるんですが、ハンドメイドの物って作り手の気持ちが素材に入ると思うんですよね。制作しながら、
このバイクでオーナーはどこに行くんだろう?
このステムキャップをサイクリング中に見て喜んでくれるかな?
このベルをどこで鳴らしてくれるんだろうか?
そんな楽しいことを考えながら作っています。
そして僕の作るものに興味を持ってくれたお客さんとの繋がりをすごく大事にしたいです。
長く待たせてしまうことも多くて… けれど文句も言わずに待ってくれる。本当に感謝です。


Photo by @nobuhikotanabe
そんな中で、どうしてタイヤを作りたいと思ったんでしょうか? 何かきっかけになった出来事や、逆にそれまで気に入って使っていたタイヤなどがあったら教えてほしいです。
現在販売されているタイヤの数はすごい量で、たくさん良いタイヤがありますよね。
かっこいいタイヤ、よく走るタイヤ、強いタイヤ、けれど”かわいいタイヤ”ってのがないと思うんです。それでかわいくて、楽しいライドを連想させるようなタイヤを作って見たかったんです。
リアルに砂漠でグラベルライドにも使って欲しいし、シティバイクにも使って欲しい。かわいいというコンセプトもあるし。どんなバイクに組んでくれるか。使ってくれるか。すごく楽しみです。とにかく色んな人に使って欲しい。

ユニークなトレッドパターンですが、何にインスパイアされてこうなったんでしょうか?
Tomii Cyclesのバイクによく使っているサボテンを使いました。イメージは僕の大好きなサウスウエストの砂漠です。
センターがスムーズでスピーディーに。サボテン、山、月がコーナーでグリップしてくれるというアイディアです。

700x40cというサイズは絶妙だと思うのですが、それをチョイスした理由を教えてほしいです。また、去年のMADEでもすでに反響がありましたが、次に作るならこのサイズが良いなぁというイメージがありますか?
700x40cがオールマイティに使えると思います。グラベルライドといっても舗装路と混ぜて走る人も多いと思うので。ローカルのサイクリスト達にも色々聞いてみて、このサイズがいいと思いました。
他のサイズで考えているのは、700C x 50 / 650B x 2.2 / 650B x 48 ですね。MADEでもよく聞かれたんですが、身長の低い方は650Bを使いたいみたいです。

少し自転車から話が逸れますが、自転車以外にハマっていることはありますか?
子供の頃から車輪のついているものはなんでも好きだったんです。古いものが好きで。うちに古くて小さい車があって乗るのも楽しいですね。
あと、最近はラジコン。笑




全てにサボテンやTomiiのロゴ付けちゃうんですよ。付けなきゃ気が済まないというか。家の裏庭に小さいコース作っちゃって。笑。バイクビルドの休憩時間にやるといい気分転換です。
けど、どんなジャンルも繋がっていて面白い。
ビンテージカーミートアップにいっても自転車好きな人が沢山いて、そこでコネクションが出来たり。

好きな音楽はどんなジャンルもしくはどんなアーティストですか? / 物作りしている時に聴いたりするお気に入りの音楽はありますか?
音楽は色々好きなんですが、最近はサウスウエストを連想させるような音楽を聞きながら作業しています。Khruangbin や Leon Bridges はすごく好きで砂漠のイメージが湧きます!

テキサスの砂漠文化にどっぷりという感じですが、故郷が新潟ということでたまに日本に帰って来てますよね。日本に来る時にいつも楽しみにしていることはありますか?
実家に帰るのってやはりいいですよね。僕は人生の半分以上がアメリカになってしまったけど、帰るとやはり落ち着くというか。家族や昔の友達に会うのも楽しいですし、食べ物や温泉もいいですよね。
自転車を始めて以来、沢山の日本の方との繋がりができて、そういった方や新しい人に会えるのも楽しみです。自転車を作ってきて本当に良かったです。

結局は人のつながりということですね。
今の時代はどこにいってもいい人も沢山いれば変わった人もいる。合う人もいれば合わない人もいる。多分世界中どこに行ってもパーフェクトなところはないんで、自分でパーフェクトにするしかないと思っています。
ありがとうございました!!
