[Bike 伊豆 between you and me] A&F24時間耐久 MTB CUP in サイクルスポーツセンター参戦の記。
好敵手とも呼べる友人が何人かいます。
時に削り合い、時に牽制し合い、彼らよりも優位に立ちたいと願うなら、えずきながらもインターバルトレーニングに打ち込めるのです。
けれど。
けれど今回は彼ら好敵手と初めての共同作業、否、共闘作業に明け暮れました。
Sim Works本隊は毎年恒例の野辺山シクロクロス巡礼、Sim Works XC Racingのぼくはいわば暗躍という形で参戦したA&F 24時間耐久 MTB CUP in サイクルスポーツセンター。
24時間を交代で走り、最も多く周回数を稼いだチームが偉いというルールですが、どうせならシングルスピーダーのみで編成された特殊部隊で挑みたいというぼくのわがままに答えてくれたのは9人。
何人かには断られるであろうと踏んで多めに声を掛けさせていただきましたが、まさかの全員OK。
後に一人は仕事の都合で不参加となってしまい、8人のライバルが同志としてぼくのわがままに付き合ってくれたのでした。
9人1チームでは過酷さに欠けると思い、2チーム編成で上位を目指しました。
今回はシムディーラーであるシコーバイシクルサービス様、たぬき小屋様、鳴木屋輪店様にも編成に加わっていただきました。
いつもありがとうございます。
編成は平等にあみだくじ。
チーム名はそれぞれSinglespeed JedisとSinglespeed Siths。
暗黒面に堕ちているぼくが加わっている方をSithsとしました。
レース準備のメンバー内でのやりとりのスレッドも早めに立ち上げ、混乱を来さぬようテンポよく段取りを整え、さあいよいよレース前日の晩のことですが、ピット内で暖を取るために支度した石油ストーブの灯油がぼくの車の後部座席で豪快にお漏らし。
シートはビタビタで、揮発した灯油に皮膚がべたつくような錯覚と、錯覚ではない確かな匂いに士気は根まで枯れていきました。
もうこの夜は準備も何もする気が起きず早々に不貞寝。
翌朝、3:30に起きてレースの支度とそれ以上に車内の清掃と換気。
正午から正午までの24時間レースだというのに、本来なら不必要な早起きをすることになり、灯油を拭き取ったタオルを洗う際の顔に跳ねたしぶきに紛れて泣いてしまいたい思いでしたが、8人の同志を思うと自然と涙腺は静まるのでした。
会場の伊豆CSCまでは車で25分。
灯油の匂いとジェイ・マスシスの気だるいボーカルが見事にマッチして震えました。
嘘です。
震えたのは窓全開で走らなければならなかったからです。
同志たちには8時に集合の号令を送っていたのですが、ぼくが7:40に到着すると全員すでに結集しピットの支度もあらかた整っていました。
申し訳ありません。
ピットエリアはCSCの5kmサーキットホームストレートに設けられ、早くも薪を焚くチームもあり、24時間レース独特の風景が溢れていました。
こちら、コース試走の模様です。
1周3.7km、アップダウンは少な目ですが、舗装路の登りが長く、意外とメンタルに響くコースかもしれません。
残雪のせいで林間はマッドですが、見かけほど滑らない親切な泥。
後半に2回訪れる急な登り返しをクールに攻め落としたいのがシングルスピーダーの心情です。
トラバース(斜面を横切る道)に横たわる木の根は常に湿っている状態で、雑に突っ込むと滑って転びます。
シングルスピードでも全乗車でクリアできるレイアウトとコンディションに灯油の悪夢を忘れることができました。
12:00~0:00 前半戦
全てのチームのスタートコールが終わるといよいよ24時間レースの始まり。
2人の第一走者を送り出し、アスファルトに染み入る正午にしては長く伸びた影に年の瀬の気配を覚え、年内最後のこのレースの結末を静かに思い描いてみるのでした。
走者がピットに帰還すると、たちまち待機班が取り囲み、計測チップを次の走者のバイクに付け替えます。
ピットワークは大切です。
タイムロスを最小限に抑えることは言うまでもないのですが、このチップの付け替えこそチームの一体感を最も感じ取ることが出来る瞬間なのです。
ローテーションが一巡する間にトラブルが立て続けに起こります。
タイヤのコンパウンドは無傷でありながらもケーシングだけが破断という今まで僕自身は経験したことのないトラブルに見舞われた走者が二人。
スペアホイールやスペアタイヤは用意してあったものの劣化や規格違いで役に立たず。
販売ブースで買い足したり、ほかの選手のスペアを借りたりと、何とかこのピンチを凌ぐ。
その間、ピット内ではさっき外したスキュアがない、サングラスのノーズパッドがない、あれがないこれがないと非常にうるさく。
この2チームで24時間というのは余りに長すぎるのではないかと不安を感じながら、ぼくはさっき脱いだはずのヘルメットがない、グローブもないとピット内を彷徨うのでした。
陽が稜線をなぞり始めると急激に気温が下がります。
ピット内は暖房最大稼働。
コース上の泥は少しだけ水分を飛ばし、幾分か走りやすくなっていました。
この頃にはSithsが首位、Jedisが3位。
シングルスピードの何たるかが会場に広まりつつありました。
16:00から翌7:00まではライト点灯のルールで、ピット内では各自セットアップに勤しみます。
恐らく多くの選手が楽しみにしていたナイトライドの始まりです。
夜。
ある瞬間、突然に夜が空から降りてきたような錯覚。
シングルトラックは手ですくい取れそうなほどの闇で溢れ、頼りない白い魔法のようなLEDライトの光が止まり木を求め彷徨う虫のようにゆらゆらと流れていきます。
視覚情報に思いっきり制限が掛かるナイトシングルトラック。
体感速度も3割増し。
恐れずに脱力することが出来るかどうかで走りが大きく変わります。
Sithsが首位、Jedisが2位となり、シングルスピードフィーバーとなりました。
明るいうちに走った時点での記憶を頼りに走ると、身体が覚えている記憶とはまるで違う路面状況になっているセクションが現れたり、お気に入りのライン取りも無残に踏み潰されてトレース不可能となっていたり、柔軟な情報処理能力が問われるナイトレース。
前向きに捉えるとするならスキルアップに繋がる、簡単に言い表すなら難しい、機会があればぜひ挑戦していただくとよろしいかと。
真夜中も近づく頃、ピット内は会話も激減し、待ちわびていたはずのナイトライドにも辟易。
昼行性動物の性に抗うことが出来ず、心の底から朝を欲するのでした。
食
話は遡ってDay1朝のピット設営後、ぼくを含めた4人で買い出しに。
走る時間より食べる時間の方が長くなるということは簡単にイメージできました。
良いもの食べようぜということになり、地の物を仕入れに海へ下りました。
地の利を生かし、シラス漁師直営の販売所へ赴き、生シラスを大量購入。
ぼくが事前に用意した地海苔との合体技で生シラス丼を。
その他に伊豆の山の物、海の物を仕入れ、長い戦いに備えました。
チームのメンバーのご家族が調理してくださり、走る側としては大いに助かりました。
ミネソタ出身のクリスティーンが焼いてくれたキッシュや極厚ステーキ、たまりません。
クリスティーン一押しのキッシュに七味唐辛子を振り掛けるという裏技、個人的にもっと掘り下げていきたい。
更に、もつ煮やパスタ、鹿肉や椎茸など。
走っていない時間は食べ続けていたこともあり、ばっちり体重を1.5kg増やして帰ってきました。
ちなみに、この大会は飲食ブースの出店もあり、さらに大会側からおでんやカレー、炊き込みご飯など、色々と振る舞いもあり、少人数の参加で料理の余裕がない方などが食事に困らないようになっています。
0:00~12:00 後半戦
天気予報は曇りとなっていたのですが、夜中1時から降り出した雨に完全に打ちのめされます。
SNSで野辺山CXの泥の泥っぷりに絶句していたところ、まさか伊豆でも似たような状況になろうとは。
待機中も寒くて仕方ありません。
テントは雨を凌ぎ絶望感をその場に留まらせることはできましたが、側面を覆うものがなく横風に対してはあまりに無防備でした。
睡眠は30分を2回ほど。
日ごろどんな手段を使おうとも7時間睡眠を得るぼくにとってはインフェルノ。
眠いけど寝られない。
眠いのか痒いのかの区別も危うくなっていく頃、夜が明けそしてこの日一番の大雨。
走り出すとすぐにバイクはメーカーも素材も判別不能となりました。
しかし泥にまみれたMTBのかっこよさと言ったら。
かっこよさというよりも頼もしさ、そして健気さ。
ショベルカーやホイールローダー等の働く車感が備わってくるのですね。
けれど泥が好きというわけではありません。
どちらかというと嫌いです。
コースはまっすぐ走ることもままならないほどの泥。
濡れた木の根に行く手を阻まれラップタイムは前日比+5分といったところでしょうか。
ツラさMaxのはずなのですが、睡眠不足による逆高揚。
楽しくて仕方ありません。
きゃっきゃ言いながら後半の後半はあっという間に過ぎ、24時間レースは終了。
Singlespeed Sithsは優勝、Singlespeed Jedisは2位。
控えめに言っても最高の結果であるワンツーフィニッシュ。
金メダルを掛けていただき、豪華すぎる賞品に戸惑いを隠せません。
2016年の最終戦、掛け替えのない仲間達とぼくらのアイデンティティであるシングルスピードで24時間を走り抜き、想像の上限であるワンツーフィニッシュを飾ることができました。
ギアは一つしかありませんが、この日は仲間が9人。
それぞれが持ち寄った自転力を重ねたアンサンブルは変速機に負けませんでした。
次に会うときは再び好敵手としてぼくの前に立ちはだかってくれるであろう彼ら。
来シーズンが楽しみです。
今回のリザルトだけで2016年は最高の一年だったと胸を張って言うことが出来ます。
ぼくのわがままに付き合ってくれた同志たち、そして彼らのご家族、応援してくれた方々、ありがとうございました。
text : Hiroki Ebiko / SimWorks XC Racing [Blog] [Instagram]