SimWorks by Nissen:『CRISPER』— ライドの触感を伝えるために

自転車に乗るという体験は、常に変化する入力とフィードバックの波の中に身を置くこと。それは複合的感覚で、時には無意識のうちに全身が宙に浮いたような状態になり、操るマシンとその下に広がる不規則な路面に素早く反応することを求められる。
タイヤの空気圧、サイドウォールの厚みや構造、トレッドパターンの違いなど、タイヤの空気力学はライド中に「感じる」要素の大部分を占めている。そして、ベアリングの品質や製造精度、適切な調整もまた、走行中に絶えずフィードバックを与えてくれる。これらが「スムーズな乗り心地」を生み出す要素になる。
でも、自転車に乗る触覚的な体験は、手元にもある。特にブレーキングやシフティングの際に。
ケーブルとアウターは、変速や制動システムの重要な構成部品であると同時に、ライド中の触覚フィードバックの端末でもある。これらの製品の仕様や構造の微妙な違いが、ライド全体の体験に繊細だけど重要な影響を与えることがある。
「ストロークロス(stroke loss)」という概念は、ケーブルアウターが荷重(変速や制動時)を受けたときにどれだけ圧縮されるかを示す技術的な指標だよ。


現代の自転車ドライブトレインは、11速、12速、さらには13速のリアカセットへと進化していて、正確な変速を実現するために、シフターとディレイラーの製造精度は非常に高くなっている。ケーブルとアウターは、シフターからディレイラーへの入力を伝える「伝達路」であり、その精度を保つためにも適切な仕様が求められる。つまり、こうした高精度な変速には、変速時のストロークロスが少ないアウターが必要で、それによってケーブルテンションの調整がタイトなギア間隔に正確に対応できるようになる。
制動においても、ストロークロスはレバーの感触に影響する。「柔らかい」あるいは「ふにゃっとした」感触として現れることがあり、特にメカニカルディスクブレーキでは顕著。メタルやシンタードのブレーキパッドがローターに強い力で接触する場面では、感触が柔らかくても実際の制動力が落ちるわけではないけれど、ライダーが望む制動力を得るためにより強い力を加える必要がある。これは、ライダーの安全性や自信に関わる重要な要素でもある。


SimWorksでは、パートナーであるNissenと協力して、従来のステンレスアウターよりもストロークロスを抑えた新しい仕様のアウターを開発した。内側のコイルを太くし、コイル間の隙間を狭めることで、より精密な構造に仕上げたものだ。
この新しいアウターを『CRISPER』と名付けた。これは「アップグレード版」や「プレミアム版」として位置づけるものではなく、より要求の高い、あるいは特定のニーズを持つユーザー向けの洗練された選択肢として提供するものである。
自転車業界が無線変速や油圧ブレーキを搭載した完成車へと移行し続ける中でも、SimWorksは従来のケーブル駆動の変速・制動システムのセットアップやメンテナンスに必要な製品を開発・提供し続けていく。


SimWorksは、今日の多様な自転車ライダーや愛好家のために、質の高い製品を作り続けている。長年の製造技術や素材、基準を守るメーカーと協力しながらも、昔からのライダーと新しいライダーの間に広がりつつある装備のギャップを埋めることを目指している。最終的には、手触りのある、安全で、信頼できるライディング体験を最大限に楽しめるようにすること。それこそが、ぼくらの仕事の多くを形づくるベンチマークになっている。














