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2019/8/17

R.I.P BG

Text by Shinya Tanaka

ブルース ゴードンがこの世を去ったのは今年の6月7日だった。

彼は何も知らなかったこの僕に美しい世界があるということを会話ではなく、道具を通して伝えてくれた数少ない人物だった。

彼のバイクの現物を最初に見たのは2007年のカリフォルニア、サンノゼで行われたナーブスの会場であった。

僕の記憶が正しければ、そのブースには3台のバイクが展示してあったはずだ。

Bruce Gordon Interview by Kitsbow

1台は上記のラグドのライトツーリングバイク、ハンドメイドのカーボンフェンダーと独特の線を持ったハンドメイドのキャリアを装着、アボセットO2を付けているあたりがニクイ、シンプルながら本当にブルースにしか作れないバイクだと個人的には思う。

そしてもう1台のバイクにも上記のバイクと同じカーボンフェンダーが奢られ、実は最初に見たときは目を疑ったのだけど、なんとカンピーレコードのフロントトリプルを装着したそのスポルティーフ バイクが展示してあり、僕はそれにハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

なぜならカンピーレコードといえば世界最高峰のレース機材であり、それこそ多くのサイクリストにとっては高嶺の花、ほとんどの購買層は裕福なエンスージアストで、当然のようにフロントはレース機材と同じダブルがほぼ100%、そして実際にそれを彼らが使っているかは確かではなかった。

若かりし僕は人それぞれの価値観を理解しようともせず、何事も小馬鹿にしてしまうような典型的なクソガキであり、ひねくれ者であり、何事も直視して見ていなかったのだと、このスポルティフバイクに “アメリカ” で出会ったことで僕の愚かな概念は木っ端微塵となった。

それは本当に美しいバイクで、写真が見つからないのが残念なのだけども、レコードのフロントトリプルのコンポーネントをあそこまで優雅に美しく装着させることができるのかと心が打たれたのだった。

そしてここからが本番なのだけども、もう1台の展示といえばとてもクリーンでシンプルな700cのツーリングバイクに、少し太めのマルチパーパスタイヤを履かせ、これもシンプルながらあくまでの機能を重視させた前後のキャリアとパニアを装備し、コンポーネントはXTとアルテグラをミックスしバーエンドコントローラーで引くシンプルツーリングバイクだった。

よくよくタイヤ見てみると700cなのだけどもそれは通常のツーリングタイヤよりもかなり太く、どんな道でも走破するためにはとても調子が良さそうだなと軽く思ったのだったのだけども、それを後に初期型の40mm幅を持つロックンロードタイヤだと知ることになる。

今でこそここ日本において僕たちシムワークスが後期型43mm幅を持つパナレーサー製のRock ‘n Roadを扱わせてもらっているのだけども、彼がこの世を去った今、そのタイヤの版権や今後の生産に対する見通しがつかないために、残念ながら在庫を持って終了となる。

このロックンロードタイヤを調べていくと彼を慕う多くの人やビッグタイヤにおける歴史のサイトに出会ったのだけども、分断され始めたこの世界のほとんどにおいて、ブルースがいかに無名であったか、でもまったく真逆の澄み切って今にも生物が生まれでそうな深海において、彼がどれほどまでに有名だったのか、そのとてつもなく大きなギャップがとても楽しくて、そして僕は美しいと思った。





最後に彼の残した功績と僕の概念並びにシムワークスの哲学を導いてくれたブルースのものづくりに対する思いに敬意を評して、ここに示しておきたい。

According to Bruce World.

– 私は美術を専攻していたことによって、より美的に好ましく、そして楽しい方法でモノ作りをするための方法を知りました。

– 機能とはカスタマーのためにものを作る事の背後にある、最も重要なアイデアと行っても過言ではありません。 あなたの自転車は自分のニーズを満たす必要はあり、それは審美的に豊かな方法で構築されるべきですが、やはり最初は何よりも機能なのです。

– どこで作られたものなのかはとても大きな事実である。

– 多くの企業がものを設計するとき、殆どの場合は利益のために、そして低コストのために他の国で製造しています。 わたしたちは倫理的に供給、調達された製品を使うことを信じています。そしてそれを行うことによって実際にモノを製造する人々の生活の質を向上させると考えています。

– 私はあなたの個性をより拡張するためのカスタムバイクを製造するためにここペタルマにいます。 そして乗ること、フィットすること、そして見た目をどのようにしたいのか、あなたのための自転車をしっかりと考え、正確に作ることが大切です。 もしそれができたのならそれは一生続くあなたとあなたの自転車の間の物語を育みます。

何度も通ったナーブスで彼から僕が学んだ大切なこととは、常に正しく見ること、使いきること、美しいと思ったものを美しいと言えること、好きなことを続けること、知ったことをなるべく肯定、咀嚼し、自分にとって正しく思えることをもっと好きになる必要があるということを、中年になって知ったのだった。

だから若い君たちにはもっと早いタイミングで知っておいてほしいんだ。
時間は永遠ではないから。


R.I.P BRUCE GORDON,
SEE YOU LATER.


*BRUCE GORDON ROCK’ N ROAD TIREは在庫がなくなり次第取り扱いを終了いたします。

ブルースの死後、残念ながら一度廃番になってしまいましたが、2019年に生前ブルースゴードンの元で働いていた愛弟子デイビッド氏が師の意思を引き継ぎ、再び生産されることとなりました。

この 2012年から使用されていたパナレーサー初期の金型が流石に劣化してきたので、2023年に新規の金型に移行するタイミングでの全てのサイズがチューブレスコンパーチブルへのアップデートしました。