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2014/2/24

-Monday Selection- Catching Up NAHBS 2014 ISSUE

今日の“マンセレ”はいよいよ来月に迫った “North American Handmade Bicycle Show” (通称 NAHBS) にフォーカスを当てた、ChrisKingのブログ “BUZZ” からの良エントリーをピックアップ。
 
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SimWorksでも最近ストックフレームがどんどん充実し始めた“RETROTEC”。そのビルダーであるカーティス・イングリスに今年最初のエントリーとしてBUZZが迫ったのにはやはり訳があり、その内容はしっかりと読み応えがあります。
 
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なぜ始めるのか? なぜ作り出すのか? そしてなぜ出会ってしまうのか?
ぜひ最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
 
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“Catching up with Curtis Inglis from BUZZ”

 

North American Handbuilt Bicycle Show(以下NAHBS)がいよいよ3月に迫ってきた。それに参加する多くのフレームビルダーたちは様々な方法でコツコツと、あるいは大胆にデザイン設計や製造を行いながら、この毎年恒例のイベントに備えて次々と完成させていているのだ。今年のNAHBSはノースキャロライナにあるシャーロットで開催され、イーストコーストのフレームビルダー達がどんなものを私たちに見せてくれるのかをとても期待している。そしてやはり、この毎年恒例のNAHBSの為の訪米の最大の理由といえば、各地から集まってくる看板アーティスト達と過ごす時間に他ならないのだ。そしてその代表的な定番ビルダーの一人として、“Ingilis & RETROTEC Cycles”のカーティス・イングリスがいる。

 

 

カーティス・イングリスは”靴”の趣味がいい。そして彼の洋服に関する洞察力とそのコーディネートセンスは、カスタム自転車コミュニティー内では敵なしであり、それは誰もが認める事実である。昨年のNAHBS 2013/デンバーで彼が履いていたテニスボール素材の黄色のオックスフォードシューズは、彼のファッションステートメントを表すほんの一例であろう。カラフルに彩られたショーバイクについてのおしゃべりをする以外は、私たちは彼の”靴”について語り合っていたのだ。そしてこれは単なる “BUZZ” (うわさ)ですが、カーティスはその鮮やか黄色のウィンブルドンのシューズがたいそうお気に入りだそうで、彼の現在のシクロバイクは全く同じ色で塗られているそうだ。カーティスの才能はそのユニークで印象的に創りあげるバイクそれのみにとどまることを知らず、それはまさに比喩を借りるのならデーヴィッド・ラッセルズの「アメリカンハッスル」的とも言えるかもしれないし、或いはその美的感覚の源は「すべては足もとから」でできているに違いない。彼がその才能を余すところ無く発揮してプロデュースする”Inglis”と”RETROTEC”という2つのブランドは、誰にでも解りやすいようにデザインされ、二又に分かれた樹のようにそれぞれの枝葉を繁らせているのだ。

 

 

カーティスはカリフォルニア州のナパで生まれ育った。そこには彼のルーツとなるすべてが存在する。カーティスの両親は彼の自宅から3kmほど離れた今は亡き祖父母の家に住んでいる。父親のダン・イングリスは彼の家族を自転車の虜にさせた発端のひとりである。80年代初期、ダンはいつもリーバイスのジーパンを履き、シュウィンのコンチネンタルで通勤を始めた。「Lycraの存在さえ知っていれば、今頃それにどっぷりとつかっていたさ。」それから3−4年後、どんどんと家から遠くへ自転車で行くようになり、それはとどまることなく彼を駆り立て、ただひたすら遠くに走り続けていくようになっていった。そう、もうすでに彼は幸か不幸か”引っかかって”しまっていたのだ。
それからすぐにカーティスの母・ジョアンは彼女の貴重な人生のひとときを夫のダンと共にスポーツとしてサイクリングを楽しむようになった。
カーティス曰く、「僕の両親は一緒にものすごいライドをたくさんしていたんだ。彼らは自分たちのタンデムバイクでレースに出場したこともあり、サイクルオレゴンのレースにも何度も出場していた。」しかしながらここ1,2年前から、ダンは病気を患い、やむを得なく長時間のライディングはをあきらめなくてはならなくなった。でも彼自身のトレーニング科目として1日1時間だけ乗ることができるのを毎日楽しみしている。そんな家族と共にしたバイクツアー “Death Ride” で父と一緒に完走した経験を、カーティスはずっと良い思い出として大事にしている。

 

 

若きカーティスも当然ながら、両親の背中を追って早朝の自転車ライドへ行くようになった。「僕が高校生時代に初めて就いたバイトが自転車屋だった。本当に僕は幸せ者だよね。だってその仕事が水族館とか弁護士事務所なんかではなくてさ。」 こんな風に自転車が好きではあったが本当の意味でそれに取り憑かれ始めたのは、1991年の事である。彼にとっての最初のマウンテンバイク、しみだらけの青と黒の”Diamond Back Apex”に出会ってしまったのだ。そろそろ卒業制作に取り組まなければ、といった頃にはすっかりマウンテンバイクのスリルに、父以上に”引っかかって”しまっていた。最終的に北カリフォルニア地方のレースで彼はボブ・シールズと出会い、併せてレトロテックバイシクルズを知ることとなる。「チコの町にボブの仕事を手伝い、その夏だけそこで働けば自分だけの【レトロテック】が手に入るだろうと思っていたが、結局は僕は3年もそこで仕事をしたんだ。」

 

 

ボブ・シールズとは”RETROTEC”を始めた”謎”の人物とされているが、カリフォルニアにおいて彼は自分の作ったレーススタイルのシングルスピードビーチクルーザーを駆り、ブーメラン水着一丁でレースに出場していた男として有名である。(訳注:巷で流行りのいわゆるスク水レーサーのハシリである。そして個人的な推測であるが、この辺りの流れからシングルスピードのキーワードとしての”仮装”がついてまわり始め、彼はそのきっかけを作ったレジェンドだと思われる。)
「”Cool Tool”なマーケットからはほど遠い存在だったレトロテックだったけど、水着一丁レーサー”ボブ”が作り上げたそのスタイルは、みんなの既成概念をとにかくぶっ飛ばしたんだよ。」とカーティスは思い出を語る。「その頃のシングルスピードバイクはとても斬新だけども、単なる流行りに過ぎないと思われていたんだ。だけどボブは単純にクルーザーのようなフレームスタイルが大好きで、そして90年代初期のイメージとして思い出しがちな”テクノ”や、”バーニングマン”や、次のブッシュ政権(1)は誰?みたいな、そのなんとも言えないその時代に反逆するようなブーメラン水着とのコンビネーションそのものを愛していたんだよ。」
そしてボブはその後“Klean Kanteen”の創業者となって自転車業界から去っていくのだが、でもそれはカーティスにレトロテックを引き継ぐ契約をする話しの前ではなかった。(訳注:一昨年のナーブスでカーティスがKleanKanteenとコラボレーションした限定ステンレスカップを販売していた事は今思うと結構感慨深い。)「ボブが一番最初に手にした自転車は古い部品を使って組み立てられたビーチクルーザーで、それを彼は自分でBBシェルを”threaded bottom bracket”を使用するために取り変えたり、シートチューブを何か軽いものに変えてみたりして、少しずつ完成形へ仕上げていったんだ。いつでもボブはビーチクルーザーフレームが持つとてもリラックスした感覚の曲線が好きだった。このような試行錯誤の歴史がレトロテックの特徴として今なおはっきりと現れているんだよ。」

 

 

このレトロテックブランドの再スタートに付け加え、1996年にはカーティスは”Inglis Cycles”を始めた。カーティス自身のファミリーネームを冠した”Inglis”はその”RETROTEC”とはまるで陰陽で、レトロテックのフレームデザインとはその見た目の持つ”時代遅れ感”やブーメラン水着ですら立派なスタイルとして人々を魅了できるという一つの完成形であるのに対し、かたやイングリスのフレームはまるでNAHBSにおけるカーティスの洗練された服装のコーディネートに見るような、Tシャツと品のいいボトムスに美しく組み合わされ、一際目立つ彼の”靴”のようなものなのである。それはとても微妙ながらとても考えぬかれたスタイルで、カーティスしか生み出せない個人的な、そして完全に”COOL”なブランドなのである。

最近になってカーティスは”れっきとした”インスタグラマーとなり、現在取り組んでいるフレームや、彼の古き良きマウンテンバイク時代の思い出、そしてひとりのフレームビルダーとして気取らない私生活を随時アップしている。もしまだカーティスのインスタグラムを見たことがないのなら、ぜひ @curtis_inglis で検索して彼の”今”にアンテナを立てておく事をおすすめする。そしてNAHBSでカーティスを見かけたり、すばらしいナパのトレールに行くようなことがあるのなら何にせよ、是非彼のアトリエを訪ねるべきだ。特徴的な曲線と好奇心すらを先取りしているカーティスが生み出す最上の”靴”が次に彼をどんなところへ連れて行ってくれるのか、それを期待しているのは決して私だけではないはずなのである。

 

テキスト:Kyle Von Hoetzendorff / Chris King Buzz
日本語訳:Sim Works