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2017/5/29
[Bike 伊豆 between you and me] 王滝浪漫譚 ~労いはスピッツで~

妻とはこれに限っては気が合う。

スピッツ。

まだ結婚する前、否、付き合い始める前のこと。

スピッツについて知りたいと妻。

ハチミツだけは必ずとぼく。

あれからもう10年をとっくに超える時間が過ぎた。

 

王滝を終えたらスピッツのライブに行こう、妻と二人で。

しかし、「私行かなーい。」の一言。

大丈夫、ぼくは単独行動が好きである。

と己に言い聞かせる。

エコパアリーナでのライブのチケット一枚だけを確保し、座禅を組み、登坂訓練に明け暮れた。

そう、座禅の一つも組みたくなる。

 

日々のトレーニングの充実と、最大の目標としているレースと、レース終了後のご褒美。

ご褒美を予め用意しておくと、レースが望む結果で終わるような気がしてくるものだ。

2017年5月21日、セルフディスカバリーアドベンチャー王滝クロスマウンテンバイク 100km

シングルスピードカテゴリー参戦の記録をここに記します。

 

5月20日土曜日。

伊豆半島東海岸の夜明けは美しい。

海から日が昇るのです。

 

日の出と共に移動を始める。

310kmのドライブ、駆るはもちろんジムニー。

未だ5速に入れたことのない、そして伊豆半島を出たのことのない新しい相棒。

高速道路では離陸しそうなエンジン音を奏でるのだけど”空も飛べるはず”というわけには行かず、大型トラックにすら追い抜かれ、道具としての不便さがとても愛おしい。

中央道伊那インターを降り、どこまでも長いトンネルを抜け、木漏れ日の溢れかえるワインディングにジムニーを躍らせ、そして白濁のエメラルドグリーンの川を横目にするようになるといよいよ王滝村に入ります。

来ちゃった感。

明日はいよいよ泣く子ももっと泣くSDA王滝をまた走るのだと、仄かに憂いを帯びた期待感が血液中を巡るのを感じます。

 

肩身の狭そうに雲が両手で数え切れるくらいの数だけ浮かんでいるのを見上げます。

梅雨入りを控え、今、全身全霊で晴れ渡ろうとする空は選手たちにとっては残酷でしかありませんでした。

この週末は長野県全域で気温30℃を超える予報。

レース前日から意識して水分を多く摂っておきます。

 

広島はGrumpy様のチームに所属する進藤選手と合流し、ロングドライブで固まった体をほぐすべく1時間ほどペダルを回します。

 

王滝村は美しい。

時間の流れが緩やかで、光と影の両方が色濃く、大いなる自然と人の営みのいずれの逞しさもここに溢れています。

 

いつものライバル達や、今回が初参加のBlue Lug御一行様に挨拶を済ませ、早めに宿にチェックイン。

早めの入浴、早めの夕飯、そして早めの就寝を心掛けて消灯するも、全く寝付けず。

ぼくは環境が変わると眠れないのです。

瞼が錆び付いて閉じません。

「時計仕掛けのオレンジ」のアレックスの洗脳シーンが脳裏に浮かびます。

強制的に瞼を開かされている気分です。

0:30の時刻を確認し、その後、意識の淵をしばらくふらついて谷へと落ちていきました。

恐らく落ちたのは1:00頃。

起床は3:00。

ぼくのレース活動においては環境適応能力を身に着けることが急務です。

 

ギア比32x20。

腰の具合が芳しくないので今回は初めてハイドレーションパックは使わず、ボトル2本を装備。

シートレールにストローフット シンプルシートバッグ、トップチューブに小振りのスナックパック。

これがぼくの王滝アサルト仕様です。

 

補給食はジェル5本、スポーツようかん1本。

少なく思えるでしょうが、これまで多くのジェルを携帯しても使い切れずにレースを終えてしまうことばかり。

無理に摂取しても胃と小腸の疲弊に体が動かなくなることもあり得るので最低限の補給食に留めておきました。

 

経験上最軽量の装備でスタートラインに立つ。

目標は5時間30分を切ること。

ぼくは弱い、だけどぼくは強い。

 

スタート後、舗装路を4kmほど先導車に牽引されパレードラン。

先導車が離れ、ダートへ突入。(大会公式Facebook動画のリンクです。38秒辺りでぼくが映ります。)

まずは8kmほどの登り。

脚はよく回り、ライバル達を置き去りにする幸先の良いスタート。

完全に、「もらった!」と思いました。

「今日はおれの日!」

スターを取った気分です、スーパーマリオの。

 

長い登りを終え、少し下り、再びの上りも軽快。

スターの効果持続ちう。

 

そして登頂、次の下りへ。

すると、右足の甲にピタっと何かが乗るような感覚が。

路面が荒く、足の甲を見る余裕がないのですが、サッカーで言えばベルカンプのファーストタッチを再現したような、インステップに心地の良い吸い付き感を覚えたのでした。

路面が落ち着き始めたところでボトルに手を伸ばすと、指は虚しく空を切ります。

ぐはっ!(吐血)

さっきのベルカンプな感覚はボトルだったのか・・・。

2口しか飲んでいないボトルを早々にロスト。

 

仕方ない、気を取り直して。

続く下り坂。

スター効果持続ちう。

このままゴールまでスターで行きたい。

しかし、スターは突然切れるものです。

続くと信じて疑わないスターを頼りに、クリボーに突進。

しかしクリボーに接触する直前でスター切れるという誰もが一度は覚えのある切ない経験です。

勢いのまま突っ込むと、腰、死亡。

完全に体も動かなくなり、この下りでライバル二人にパスされ、33km地点の第一チェックポイントでもさらに二人のライバルにパスされてしまいます。

 

登っていても気付けば鼻呼吸になっているほど体が動きません。

心拍数が下がるところまで下がるとテンションも急落。

止まってストレッチするも、楽にはならず。

絶えない振動に腰も尻も痺れてしまい、キアリクの呪文を覚えてこなかった己を呪うのでした。

よぎるリタイアの四文字。

やめちゃうのか?

自問を繰り返すも、常に脳みそのしわに挟まっていたのはエントリーフィー+交通費+宿泊料。

せっかくの一泊二日のファンタスティックなショートトリップをこれしきの腰痛如きに台無しにされてなるものか。

 

耐えて、耐えて、絶えそうになりながら耐えると、原因不明のフワっと感が湧いてきました。

なんか少し腰が軽くなったかも。

或いはもう痛みと痺れの度数が振り切ってしまっているのかも。

とにかく、痛みと痺れが少し軽くなりました。

 

やる気制御室に入り、出力を最大に上げ、もう数値を下げることができないようにダイアルをぶっ壊し、部屋の扉に鍵を100個掛けて、もう何人もぼくのやる気に干渉出来ないようにしました。

残すは40km。

 

第2チェックポイントの後の激登り区間で先に逃げたライバル二人に追いつきました。

例年なら斜度に加えて路面の荒れ方もエグい難所なのですが、どなたかがトンボ掛けとブラシ掛けを施して下さったようです。

これなら踏み切れる!

あと少しで登頂というところで前輪を深い砂利に刺してしまい足をついてしまいましたが、かつてないほど耐え抜くことが出来、もう自分でも自分を止めることができません。

 

腰はエンコしてしまったけど、脚を攣ることがなかったのは自身でも不思議に思います。

最後まで踏み倒せました。

あと二人のライバルにも追いつくつもりで。

最後の最後まで集中して走り抜きましたが、とうとう追いつくことは出来ませんでした。

5時間50分、7位。

自己ベストを6分更新するも、目標の5時間30分はあまりにも遠い。

今回は9位までが5時間台という、かつてないほどのハイレベルなレースとなりました。

 

レースにおいてifを語るというのは殆ど御法度扱いでありますが、僕は語ります。

良いイメージは起こりうる現実だと信じたいからです。

言葉にしておく必要があるのです。

もしも、腰がエンコしなかったら・・・。

最初のペースで走り続けることが出来たなら・・・。

ま、後半まで脚は残らず、失速してたことでしょう。

最初のペースは明らかなオーバーペースでした。

最良のイメージを最後まで辿ってみても5時間30分には届きません。

要するにぼくにはまだ5時間30分を切れる力がないのです。

 

9月の王滝はスキップします。

一年後、ぼくは目標に届いているでしょうか。

 

ともあれ、とても楽しい二日間となりました。

ぼくと絡んで下さった皆様、ありがとうございました。

日常の一切を忘れることが出来たかけがえのない時間となりました。

また彼の地で。

 

text : Hiroki Ebiko / SimWorks XC Racing [Blog] [Instagram]

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