[Bike 伊豆 between you and me] 2016年9月 セルフディスカバリーアドベンチャーイン王滝 参戦の記。
5月は想定できる範囲を遥かに超える大失敗に終わってしまったSDA王滝。
この9月大会は仕事の都合で日帰りしか出来ず不参加を考えていたのですが、やはり失ったものを取り戻すべく日帰りでも何とかなりそうな42kmの部への参加を決めました。
42kmの部はシングルスピードカテゴリーは設定されておらず、つまりシングルスピードも変速機付きも同じ括りで争うことになります。
9/17土曜日、休日出勤を終えてすぐさま王滝村へ向けて車を走らせます。
運転があまり好きではない僕にとってはレース以上に過酷な5時間以上のドライブ。
到着は真夜中、天候は雨。
車の屋根を打つ雨音が気になりながらも沼に沈んでいくように眠りに落ちました。
ひどく疲れていました。
3時30分起床。
脳みその代わりに綿を詰め込んでいるかのようにモヤモヤし、日頃は7時間以上の睡眠を心掛けている僕にとっては仕打ちとも呼べる目覚めでした。
雨は柏倉隆史のドラムスのように緩急と強弱をつけどこか情緒的に王滝の美しい山々を悪魔へと変貌させていきました。
42kmの部はメイン会場から11km離れた場所からスタートで、レースは7:00スタートなのですが、できるだけ前列に並ぶために4:40に会場を出発、民家は無く街頭もまばらな真っ暗な夜道を独りずぶ濡れになりながら進んでいきました。
仄かに明るくなってきたころスタート地点に到着、前から二列目の好位置を獲得、7:00を待ちます。
7:00のスタート後、先導車によるパレード走行を数km行い、先導車が外れるといよいよレースの始まりです。
dinglespeedという手段
勾配3~4%ほどの舗装路がしばらく続くという情報を事前に得ていました。
レース前方ではさながらロードレースのような牽き合いが行われるとのことで、どちらかというと登りにフォーカスしたギア比を設定せざるを得ないシングルスピードにとってはとても酷なコースと言えます。
そこで考えたのはdinglespeed。
singlespeedであることには変わりないのですが、リアハブのフリーボディにコグを二枚、クランクにチェーンリングを二枚組み付け、状況に応じて手でチェーンを掛け替える方法です。
32×20と34×18を設置しました。
それぞれコグとリングの歯数の和が52です。
この和を揃えることでチェーンテンショナーをいじることなく手で掛け替えることが出来るのです。
舗装路の高速区間を34x18でなるべく離されないように粘り、ダートの登りに差し掛かったところで32×20で離しに掛かるというプランを携えて臨みました。
しかし、高速区間は想像以上に高速で全く付いていけず、なす術なく25人くらいを見送りました。
それでもdinglespeedは間違いなく有効であったはずです。
被害を最小限にとどめることが出来ました。
シングルスピードでのレース運びについて
高速区間の途中に真っ暗なトンネルがあり、轍の部分だけコンクリートで固めてあり、その他はズルズルと走りにくい砂利。
真ん中の砂利の部分に突入してしまい、コンクリートで固めてある方へとリカバリーを試みたのですが、その段差が思いのほか大きく、しかし暗さでその段差の大きさをしっかりと把握できず、後輪を取られて軽くクラッシュ。
身体は無傷でしたが、ブレーキレバーがアブドーラザブッチャーの靴のように先端が曲がってしまいました。
ダートの登りに突入後すぐに一旦バイクから降りてチェーンを掛け替えます。
ぼくのターンの始まりです。
8月のアドベンチャーイン富士見の時も好調でしたが、今回は更に踏めました。
多量の雨水を湛えた砂利はギュッと締り、力任せに掛けてもリアがスピンすることもなく、シングルスピードに誂えたようなコンディションに嬉しくなりました。
路面状況によって登り方を変えていきます。
小石大の砂利の区間はバイクを揺さぶってダンシング、砂に覆われた区間は更にバイクを大きく振りサイドノブを地面に突き立てるようにグリップを稼ぎながらダンシング、砂の深い場所やガレ場はサドルノーズに座り踏み込んでいきます。
気温は10度をやっと上回るくらいで、しかも土砂降りの雨。
それでも暑くてたまらないくらい追い込んでいきます。
標高を上げていくとコースは道ではなく沢になっていき、32×20でもちょっと重すぎたかとぼくの弱さが垣間見えたりもしたのですが、たったの42kmという意識があったため、全力で沢を逆流していきました。
荒れた路面の抵抗に加え、水圧とも戦わなければならず、更には風も強く吹き、苦しみのデパート。
長い長い登りで何人かパスしていき、ペース配分も何も構わず100%の力でブリブリ踏んでいくと絶好調ではあるもののやはり膝上の筋肉が痙攣していくのですが、サドルテールに深く腰掛けて膝上を休ませるとものの1分程度で回復し、再びモリモリ踏んでいくことが出来ました。
かつてこんなにも踏み倒せたレースがあったでしょうか。
自分でも怖いほど掛かります。
登りが絶好調なら下りも同じでした。
下りが苦手ですが、2名をパス。
コーナーに大きな岩が埋まっていれば、岩の路面から顔を出している部分の側面にタイヤを当ててコーナリングの助けにすることもあるのですが、今回はそのようなことも必要とせず、インを攻めていける場面も多かったように思えます。
なぜか視線を高く保つことが出来、危険を予測出来ているかのような錯覚さえ覚えました。
リスクを回避しながらも攻めていくことが出来ました。
そして事前にdinglespeedを試すうちに気付いたことがあります。
チェーンを手で掛け替える為、チェーンテンションは弱めてあります。
これがチタンフレームのしなやかでフレーム自体でグリップする感覚を引き出すのです。
というよりも逆に強いチェーンテンションはフレームのフレキシブルな動きを妨げるのです。
乗りこんでいるつもりでもまだまだ新しい発見があるものです。
無パンク記録
今までぼくは王滝ではパンクしたことがありません。
とても気を遣って下っています。
尖った岩を避けるべきか、避けられそうもなければあえてタイヤの真ん中で乗り上げるべきか、乗り上げると動く岩か、なるべく早く判断していきます。
そしてタイヤサイドを傷付けない様にする為、路面の荒れ方がひどい個所ではバイクを大きく寝かせるリーンアウトは出来るだけしないようにしています。
雨はパンクリスクが高まります。
濡れれば岩でもガラスでも金属片でも摩擦係数が減り、渇いていればゴムの表面に引っかかって止まるものが、濡れて滑りやすくなるとゴムの内側に簡単に到達していきます。
コースは道ではなく沢と化していて、路面状況を把握できません。
隠れキャラが悪さを働かないことを願うばかり。
後半は勘で下るという賭けに出るしかありませんでしたが、今回も何とか無パンク記録を伸ばすことが出来ました。
かつてない走りの後に思うこと
最後の長い下りではリアタイヤが少し流れながらも最高速度50kmを超えて、最後の最後まで攻め切ることが出来ました。
総合14/266位、年代別4位。
リザルトを確認した瞬間はまたしても報われないことを呪いたい気持ちでしたが、しばらくすると絶好調でさえこのリザルトならもう仕方ないなと思えました。
ぼくが弱く、ぼくよりも先にフィニッシュした人たちはぼくよりも強い、それが揺るぎない事実なのです。
言い訳も何も思いつかないので、これからまた強くなろうと思います。
とにかく過去最高に追い込むことが出来て、アドレナリン全開の楽しいレースでした。
異常なコンディションの中、セルフディスカバリーアドベンチャーを心行くまで楽しむことが出来ました。
なかなか思い通りにならないシングルスピードですが、今回は少し理想の乗り方に近付くことが出来ました。
大切なのは脚力以上に想像力。
出来ないことを数えるよりも、出来ることをイメージするのです。
まだまだぼくのシングルスピードの挑戦は続きます。
text : Hiroki Ebiko / SimWorks XC Racing [Blog] [Instagram]