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2018/2/18
[Bike 伊豆 between you and me] 2 Wrongs Make 1 Right

お台場海浜公園 シクロクロス東京 C3、3位。

C2への昇格を決めた。

 

ほっとした瞬間だ。

己に課した今シーズンの目標を達成出来たから。

チームの男子メンバー全員がこれでC2を走ることになったから。

それもある。

しかしそれ以上にこの日の早朝から続いた負の連鎖をここでようやく断ち切ることが出来たというのが最たる理由だ。

どん底と絶頂を味わった2月10日の記録をここに記す。

 

Mogwaiというバンドがいる。

グラスゴー出身のポストロックバンドだ。

病的で、破滅的で、幻想的で、反面、戦略的で、救済的な音楽を奏でる最高にマブいバンドだ。

 

彼らのナンバーの中に、”2 Rights Make 1 Wrong” という泣く子ももっと泣くキラーチューンがある。

タイトルを訳すと、”2つの権利が1つの過ちを生む”と言ったところだろうか。

ポストロックバンドであるMogwaiの曲は殆どがインストゥルメンタルであり、ボーカル曲であっても2 Rights Make 1 Wrongのように歌声を効果音のように扱うことがある。

曲のタイトルは極めてメッセージ性が高く、曲に秘められたメタファーをどう紐解くかが彼らの音楽を楽しむ秘訣であったりする。

 

ぼくはこの2 Rights Make 1 Wrongではなく、2 Wrongs Make 1 Rightの道を歩むことになるのであった。

つまり、2つの過ちの果てにC2への昇格切符を手に入れたのだ。

 

2列目に並んだスタート。

ひどく緊張していた。

それは昇格を意識していたからに他ならない。

先の愛知牧場でのレースで昇格まであと4秒というところまで上り詰めたのだったから、お台場での意識は過剰なものではなかった。

しかし、このスタートラインに並ぶ前までの時間は完全にBadへと陥っていた。

 

では2 Wrongsを明かそう。

いつものようにジムニーのルーフにバイクを積み、日の出の方角へ走る。

レインボーブリッジを渡っていると、正面の空が朱を以て夜と朝の境界をくっきりと分かち始めたところだった。

午前6時、随分日の出が早くなったものだ。

 

首都高台場線を下り、駐車料金に上限のある北口駐車場を目指す。

北口駐車場の入口で敷地内を見渡すと天井のある作りであった為、バイクを屋根に積んだジムニーでは入れない。

しかし敷地入り口は屋根のないスペースがあったのでそこに駐車することに決めた。

発券機に車を着ける。

停車と同時に頭上から堕天使のうめきにも似た何かの破壊音が聞こえ、ぼくは灼熱の炎天の下で極寒のブリザードに晒されたような皮膚感覚を覚え、心拍数が振り切った。

ギアをRに入れ、慌てて車を下げる。

たまらなく暑くて、たまらなく寒い。

車を降りると発券機の頭上には雨除けがあった。

ヒゲが全て抜け落ちてしまう錯覚を覚え、膝から崩れ落ちそうになりながらも、勇気を振り絞って車とバイクを確かめた。

ルーフラックは折れているが、車とバイクは無傷のようだ。

雨除けも無事だった。

ルーフラックが命の石となって、雨除けとの衝突というザラキーマからぼくを守ってくれたのだ。

気を失う寸前だったが、これでもシングルスピーダーの端くれ、何とか不屈の精神で持ちこたえた。

駐車場からレース会場へ向かう途中、優しくそよぐ海風にヒゲが微かになびき、抜け落ちていないことを確認した。

 

ルーフラックを亡き者としてしまったことを帰宅後に全身全霊を以て妻に打ち明けたが、「ふーん」という返事が返ってきただけだった。

彼女の中に買い替えるというプランが芽生えることはないのだろう、故に落胆も怒りもないのだ。

ルーフラックが壊れたという説明が空気の振動となって鼓膜を揺らしただけで、それ以上もそれ以下もなく、話は終わった。

 

レースまでに何とか気持ちを切り替えたかった。

砂浜での乗車は困難を極める。

レース前のチームフォトセッションではシングルスピードのギア比では乗車すること叶わず、ぼくだけがバイクを担いでランとなったわけだが、これは予め覚悟していたことなのでシューズ内に砂が入り込むことを抑える為にシューズカバーを持参した。

購入して間もない、一度のみ使用しただけのとっておきだ。

今日のぼくはルーフラックを壊しはしたが、レースに対しては抜かりがないという話をしながら装着しているときに事は起きた。

破れた。

装着の途中で真っ二つに音もなく裂けたのだ。

 

ルーフラックと共に折れ、シューズカバーと共に破れたぼくの心はレースから離れつつあったのだけど、チームの仲間たちは言う。

「ブログネタが出来て良かったね」と。

おお、そう来たか。

けれどそれで良いのだろう。

シムワークスの為なら、ルーフラックとシューズカバーを捧げるくらい何のことはない。

しかしこれ以上何かを捧げるのは無理だ。

あとは何事もなくレース走らせてくれ。

 

そして、多くの友人が観戦に駆けつけてくれたことは大きな救いとなった。

彼らのエールに応えたい。

2 Wrongsを1 Rightへと成したかった。

 

2列目からスタートした後、いつも通り伸び悩み前に出ることが出来ない。

一周目の林間を抜けて長い砂浜区間に突入する時点で恐らく15位くらいだったのではないかと思う。

 

砂区間での乗車は最初から諦めていた

試走時では周囲の選手を見渡すと思いの外乗車でバイクを進ませられるようだったが、本番では試走で出来ることが出来なくなるものだ。

C3では殆どの選手がランニングせざるを得なくなるだろうと読んだ。

試走でも乗車はせず、ランニングだけを考えた。

シングルスピードで立ち回るコツは、不確かなものを潔く切り捨てることも一つだと思う。

 

ランは得意である。

一年半前から週に2,3回ほど、夜明け前に走っている。

元々は禁酒を始めた頃、早朝に何かトレーニングをと考えたのだけど、MTBでのトレーニングをするとなるとタイヤの消耗が気になった。

だから走ることにした。

ランニングシューズも消耗するが、MTB用のタイヤほどではない。

 

夜明け前のランニングは素晴らしい。

暗い夜の間に淀んでしまったアトモスフィアを、ぼくが走り抜けるときに起こす風によって揺り動かす。

ぼくが世界を乱し朝を告げるのだ。

すると、木々は揺れ始め、鳥たちはさえずり始め、世界は東側から色彩を奪還していく。

人は走るべきだと思う。

更に言えば、人は明け方に走るべきだと思う

 

1周目の砂浜ランニングで8人抜き、2周目の同じ区間で3人抜いた。

4位で2周目を終えた。

 

チームメイトJasminからの檄が飛ぶ。

多くの声援はドーピング以上に選手の能力を高めるのではないかとぼくは思っている。

 

砂では乗車しないことを決めていた為、タイヤはブロックタイヤのまま、空気圧は林間での走りのみに合わせて1.9barとした。

林間は道幅が狭く、追い抜くことは難しい。

逆に追い抜かれることもない。

やはり砂浜での攻防で全てが決まるレースのようだ。

 

砂区間が長い。

人は8kg程のバイクを担いだまま走ることが出来るのはせいぜい200mだということを身を以て知った。

毎周回、砂区間の後半はバイクを押して走ることとなった。

右脚を何度もペダルに打ち付けて、無数のあざを拵えた。

 

3周目も4位のまま終え、5秒ほど前に3位の選手を先行させたまま最後の長い長い砂浜に突入していく。

もちろんランだ。

一気に差を詰めて、踏み均されていない深い砂の左側から追い抜く。

なりふり構わず全ての一歩を会心のものとして。

 

砂浜を渾身のランで終え、林の中を右に左にうねりながらペダルに体重を載せる。

どうか、どうかコケないでくれと最大級の祈りを己に捧げながら。

フライオーバーを越え、振り返ると追撃を振り切ったことを理解する。

3位を獲得した。

同時に出走者数の多さからC2への昇格を確信した。

 

フィニッシュラインではチームメイトと多くの友人たちが待ち構えてくれていた。

そしてMogwaiもぼくに力を授けてくれた。

仲間たちとMogwaiがぼくを導いてくれたのだ。

ぼくに力を与えてくれてありがとう

 

帰路の車中でMogwaiを聴いたのは言うまでもない。

2Rights Make 1wrongが収録されているアルバム Rock Actionに、このTake Me Somewhere Niceが収録されている。

どこか良い所に連れてってくれ、というタイトルだ。

繰り返すが、C2に連れてってくれたのは仲間たちとMogwaiである。

 

こうしてぼくは2つの過ちの果てにC2を走る権利を獲得した。

平昌オリンピック男子フィギュアスケートでは、羽生結弦選手が数々の苦難を乗り越え金メダルを獲得した。

彼の復活劇の前にぼくの昇格は霞んでしまったのだけど、ぼくも苦難を乗り越えた者として彼にシンパシーを抱かずにはいられない。

 

Sim Works CX Racingの発足に伴い、初めてシクロクロスという競技に真剣に取り組むことになったこの冬。

1シーズンの内、走ったレースは6つのみなのだけど、2度表彰台に上がることが出来た。

野辺山と東京という大舞台で結果を残せたことは素直に嬉しい。

実をいうと、当初は1シーズンのみのシクロクロス参戦を予定していたのだけど、来シーズンも走ることになった。

目標はC2残留ではない。

更なる高みを望む。

しかしその為にはもっとフレキブルに対応していく必要がある。

ギア比は39×18の1つだけでは対応しきれない。

このギア比が機能したのははっきり言うと野辺山だけだった。

C2から上は怠りが自滅を招くだろう。

丁寧に取り組んでいくことを誓う。

 

ぼくの今シーズンのシクロクロスはこれにて終了だ。

ここまでぼくらSim Works CX Racingを気にかけて下さった方々にお礼を申し上げたい。

どうもありがとうございました。

 

3月からぼくはMTBのレースを走り、5月には王滝がある。

ぼくが最も心血を注ぐレースだ。

毎年思っているのだけど、今年こそは!

王滝は多くの人々に走って頂きたいレースでもある。

シムワークスからはぼく以外の者も参加する方向で話は進んでいる。

彼の地で多くの方と苦しみを共に出来たらと願う。

それでは皆様、次は王滝でお会いしましょう。

王滝ではWrongsを要することなくRightを手に入れたい。

 

 

text : Hiroki Ebiko / SimWorks XC Racing [Blog] [Instagram]

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